ザ・サイドワインダー (曲)

「ザ・サイドワインダー」（The Sidewinder）は、ジャズのトランペット奏者として知られるリー・モーガンが作曲し、演奏したことで歴史に名を刻んだ楽曲です。彼の代表作である同名のアルバム『ザ・サイドワインダー』のタイトル曲として、1964年にブルーノート・レコードから発表されました。このアルバムは1963年12月21日に録音されており、この楽曲は瞬く間にジャズ界を超えて大きな注目を集め、現代ではジャズ・スタンダードとして広く認識されています。

楽曲の特徴と由来

この楽曲は、その印象的なリフと独特の構成で聴く者を惹きつけます。一般的なジャズの楽曲構成とは異なり、24小節というユニークな形式を持っています。特に聴きどころとなるのは、17小節目から18小節目にかけて現れる、予期せぬマイナー・コードへの転調です。この一節が楽曲に独特の緊張感と奥行きを与えています。曲名の「サイドワインダー」は、一般的に連想される砂漠に生息するヘビではなく、モーガン自身がテレビで見た「悪漢（バッド・ガイ）」から着想を得たと語っています。

録音メンバーと商業的成功

「ザ・サイドワインダー」の録音は、1963年12月のセッションで行われました。リー・モーガンのトランペットを中心に、テナーサックス奏者のジョー・ヘンダーソン、ピアニストのバリー・ハリス、ダブルベース奏者のボブ・クランショウ、そしてドラマーのビリー・ヒギンズという、当時のジャズ界を代表する精鋭たちが顔を揃えました。この盤石な布陣が、楽曲に力強い推進力と表現豊かなインタープレイをもたらしています。

アルバムに収録されたこの曲は、単なる人気曲に留まらず、シングルカットもされました。両面にわたって収録されたシングル盤（BN 1911）は、ジャズの楽曲としては異例のヒットを記録し、1964年12月19日付でBillboard Hot 100チャートに93位で初登場。その後も順位を上げ、最高81位まで上昇しました。この成功は、当時のブルーノート・レコードにとって過去最大の商業的成果であり、レーベルの経営にも大きな影響を与えました。

評価と影響

「ザ・サイドワインダー」のヒットは、リー・モーガンを国際的なスターダムへと押し上げました。世界中のジャズ愛好家がこの楽曲を通じて彼の存在を知り、彼の才能を高く評価するようになりました。『The Penguin Guide to Jazz』では、オリジナルの録音について、「タイトル通り、しなやかでありながら刺すような、栄光に輝く24小節のテーマ」と評され、モーガンのキャリアにおける最高潮であると同時に、彼の悲劇的な最期（1972年2月19日の殺害事件）を予感させるものとしても言及されています。

この曲の成功は、後続のジャズミュージシャンにも大きな影響を与えました。キャッチーでファンキーなテーマを持つ楽曲がアルバムの冒頭に置かれるというスタイルは、以降のハードバップやファンキー・ジャズのアルバム構成にしばしば見られるようになりました。トロンボーン奏者のカイ・ウィンディングが1966年のアルバム『Dirty Dog』でカバーするなど、発表から間もなく多くのアーティストに演奏されるようになります。

特筆すべきエピソードとして、1965年のワールドシリーズのテレビ中継で、クライスラーの広告にこの曲の録音が無許可で使用された一件があります。テレビで自身の曲が流れているのを見て初めて事態を知ったモーガンは、クライスラー側に対し楽曲の使用許可が取られていないことを指摘し、訴訟も辞さない構えを見せた結果、クライスラーはこの広告の放映を中止することで事態を収拾しました。

日本語によるバージョン

日本においては、吾妻光良 & The Swinging Boppersが2006年のアルバム『Seven & Bi-decade The Great Victor Masters 2003-2006』に「The Sidewinder」としてこの曲を収録しています。彼らはオリジナルのトランペットの旋律に日本語の歌詞をつけたヴォーカリーズという形でこの名曲に新たな息吹を与えています。

「ザ・サイドワインダー」は、単なるヒット曲としてだけでなく、ジャズ史においてハードバップからファンキー・ジャズへの流れを象徴する重要な楽曲として、今日でも多くのジャズ・ミュージシャンに演奏され、リスナーに愛され続けています。そのキャッチーさと深みは、発表から数十年を経た今も色褪せることがありません。

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