ザ・スフィア

「ザ・スフィア」は、ドイツの芸術家フリッツ・ケーニッヒによって制作された、高さ約7.6メートルのブロンズ製彫刻作品です。元々は、ニューヨークのワールドトレードセンターの広場（オースティン・トービン・プラザ）の中心に設置されていました。この彫刻は、52個の銅製パーツを組み合わせて作られており、その制作はドイツのブレーメンで行われました。

ワールドトレードセンターでの役割

1971年から2001年まで、「ザ・スフィア」はワールドトレードセンターの中心的な存在でした。広場は、ワールドトレードセンターの設計者であるミノル・ヤマサキによって、メッカの大モスクを模してデザインされ、「ザ・スフィア」は、その中心にある円形噴水の中心に位置し、メッカのカアバに相当する場所とされていました。この彫刻は、「世界の平和と貿易」を象徴するものとして、人々に親しまれていました。

制作の背景

この作品は、1966年にニューヨーク・ニュージャージー港湾公社（PANYNJ）がフリッツ・ケーニッヒに制作を依頼したことがきっかけです。当初、港湾公社はヘンリー・ムーアに依頼することを検討していましたが、ミノル・ヤマサキがケーニッヒの作品を目にしたことで、ケーニッヒが選ばれました。ケーニッヒは1967年から制作を開始し、4年後の1971年に完成させました。ケーニッヒ自身は「Grosse Kugelkaryatide N.Y.（ニューヨークの巨大な球状カリアティード）」と名付けましたが、一般には「ザ・スフィア」として知られるようになりました。

9.11テロとその後

2001年9月11日のアメリカ同時多発テロにより、「ザ・スフィア」は大きな被害を受けましたが、破壊は免れました。テロ後、がれきの中から回収された「ザ・スフィア」は、ジョン・F・ケネディ国際空港近くの倉庫に保管されました。比較的軽度の損傷であったため、ワールドトレードセンターの象徴であったこの作品を9.11テロの記念碑として使用する意見が多く上がりました。作者のケーニッヒは当初、この作品を「美しい死体」として再び展示することには反対していましたが、最終的には再展示に同意しました。

バッテリーパークへの移設

2002年3月11日、「ザ・スフィア」はマンハッタンのバッテリー・パークに移設され、9.11テロの犠牲者の追悼碑として再建立されました。移設作業はケーニッヒ自身の監督のもとで行われ、新しい台座も製作されました。再建立の記念式典では、当時のニューヨーク市長マイケル・ブルームバーグや前任者のルドルフ・ジュリアーニがスピーチを行いました。ケーニッヒは、「かつてこの作品は彫刻だったが、今は記念碑となった。今や私自身が想像だにしなかったような美しさを有しており、私が与えたものとは異なる独自の生命が宿っている」と語りました。

リバティパークへの再移設

その後、2011年には、「ザ・スフィア」をワールドトレードセンター跡地の9.11メモリアル内に移設するオンライン請願が始まりました。しかし、9.11メモリアルの関係者は、プラザにテロの遺物を設置することには反対しました。一方で、「ザ・スフィア」の所有者であるニューヨーク・ニュージャージー港湾公社は、2012年6月28日に9.11メモリアルへの移設を支持すると表明しました。2016年6月には、9.11メモリアルの近隣にリバティ・パークがオープンしましたが、「ザ・スフィア」の移設問題は未解決のままでした。

2016年7月22日、港湾公社は「ザ・スフィア」をリバティ・パークに移設することを決定し、2017年8月に移設が完了しました。これにより、「ザ・スフィア」はバッテリー・パークからワールドトレードセンター跡地を見晴らす場所に移動し、同年9月6日に一般公開されました。2017年11月29日には、ワールドトレードセンターへの帰還を祝して記念式典が開催されました。

「ザ・スフィア」は、その設置場所を変えながら、ニューヨークの歴史と人々の記憶を刻み続ける象徴的な存在となっています。

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