ザ・ビートルズ: Get Back

ザ・ビートルズ：Get Back - 伝説のセッションがよみがえる

1969年、ビートルズは創作活動の拠点をリンゴ・スターの自宅スタジオに移し、新しいアルバム制作に臨みました。この期間に行われたセッションは「ゲット・バック・セッション」と呼ばれ、その模様は記録フィルムと音声テープとして残されました。しかし、これらの素材は、当時制作されたドキュメンタリー映画『レット・イット・ビー』の一部として使用されたのみで、大部分は未公開となっていました。

それから50年以上が経過した2016年、アップル・コアはビートルズの新たな映像コンテンツの可能性を探る中で、この貴重な未公開素材に着目します。そこで、VRやAR技術を取り入れた展示イベントの企画中に、熱心なビートルズファンでもある映画監督ピーター・ジャクソンに協力を仰ぎました。

ジャクソンは、初期に提供された映像の一部を見ただけで、『レット・イット・ビー』とは全く異なる、ビートルズの創造性を鮮やかに捉えた映像がそこに眠っていることを確信します。しかし、このプロジェクトには大きな課題がありました。それは、長年彼らの心に影を落としていた『レット・イット・ビー』制作時のネガティブなイメージを払拭し、メンバー自身にも納得してもらわなければならないという点です。

ジャクソンは、ポール・マッカートニーとリンゴ・スターに未公開映像を丁寧に説明し、彼らの理解と協力を得ることに成功します。そして、本格的な映像・音声の修復作業が始まりました。50年以上が経過した16mmフィルムは退色し、モノラル録音の音声は会話と楽器の音の分離が困難な状態でした。

そこで、ジャクソンは、以前第一次世界大戦のドキュメンタリー制作で培った映像修復技術に加え、AIを用いた機械学習プログラム「MAL (Machine Audio Learning)」を新たに開発します。このプログラムは、ギター、ドラム、各メンバーの声といった音声をAIに学習させ、それらを個別に抽出することが可能にしました。その結果、まるで昨日撮影されたかのような鮮明な映像と、クリアな音声が蘇りました。

2019年1月30日、いわゆる「ルーフトップ・コンサート」から50周年の節目に、このプロジェクトが正式に発表されました。当初は劇場公開を予定していましたが、新型コロナウイルス感染症の世界的流行の影響で、公開は延期、さらに配信サービスDisney+での公開に変更されるなど、紆余曲折がありました。

2021年11月25日、ついに『ザ・ビートルズ：Get Back』の配信が始まりました。当初は6時間と発表されていましたが、ジャクソンの意向でボーナス映像を追加した結果、7時間50分に及ぶボリュームとなりました。この作品は、ビートルズの創造性の高さとメンバー間のダイナミックな関係性を克明に描き出し、世界中のファンを魅了しました。

その高い評価は、数々の賞を受賞したことにより裏付けられています。2022年の第74回プライムタイム・クリエイティブ・アーツ・エミー賞では、「連続ドキュメンタリー / ノンフィクション番組部門」をはじめ、監督賞、映像編集賞、音響編集賞など、数々の賞を受賞。そのクオリティの高さが証明されました。

さらに、この作品から「ルーフトップ・コンサート」の映像をまとめた『ザ・ビートルズ: Get Back (Rooftop Performance)』も劇場公開され、世界中で大きな話題となりました。

『ザ・ビートルズ：Get Back』は、単なる音楽ドキュメンタリーにとどまらず、高度な技術と情熱によって生み出された、歴史的な作品として、今後も語り継がれていくことでしょう。 その制作過程、技術革新、そして公開までの道のりは、まさに伝説のセッションにふさわしい、ドラマティックな物語でした。

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