ルーフトップ・コンサート

ビートルズの屋上ライブ：伝説のルーフトップ・コンサート

1969年1月30日、ビートルズはロンドンのアップル・コア本社屋上で、40分以上にわたるサプライズ・ライブを行いました。一般には告知されず、関係者以外には観客もいない、いわば非公開の演奏会でした。しかし、この「ルーフトップ・コンサート」は、後に音楽史に刻まれる伝説的な出来事となるのです。

コンサートに至る経緯

このコンサートは、アルバム『レット・イット・ビー』制作のための「ゲット・バック・セッション」の一環でした。当初は新曲の公開演奏の予行練習として1月2日に始まったセッションでしたが、メンバー間の不協和音やジョージ・ハリソンの一時離脱を経て、新しいアルバムのレコーディングへと変化していきました。

1月21日、セッションはアップル・コア本社に移り、地下スタジオでの正式なレコーディングが始まりました。22日には、ビリー・プレストンがキーボーディストとして参加。このセッションの雰囲気を大きく変えることになります。

しかし、ポール・マッカートニーとドキュメンタリー映画制作を担当していたマイケル・リンゼイ＝ホッグは、セッションの締めくくりとして、一般の人々を前に生演奏を行うことを望んでいました。ルーフトップ・コンサートの発案者は特定されていませんが、数日前に提案されたと考えられています。プレストンはジョン・レノンが、リンゴ・スターは様々な候補地の中から機材の都合で屋上になったと証言。リンゼイ＝ホッグの発案、そしてビートルズのエンジニア、グリン・ジョンズが自伝でアイデアの立案者であると主張するなど、様々な説が存在します。

当日の様子

マル・エヴァンズの手配により、屋上には機材が設置されました。強風対策として、エンジニアたちはマークス＆スペンサーで女性用ストッキングを購入し、マイクに装着するなど、工夫を凝らしています。

12時30分開始予定でしたが、ハリスンとスターの参加に遅れが生じ、結局12時40分頃に演奏が始まりました。「ゲット・バック」「ドント・レット・ミー・ダウン」「アイヴ・ガッタ・フィーリング」「ワン・アフター・909」「ディグ・ア・ポニー」など、計9テイクの演奏と短いジャムセッションが行われました。レノンは合間に「ダニー・ボーイ」や「A Pretty Girl Is Like a Melody」なども歌いました。

突然の大音量の演奏に、ビジネス街の道路には屋上を見上げる群衆が集まり、近隣のビルの屋上にも人が集まりました。中には、梯子を使ってアップル・コアの屋上に侵入する者もいました。しかし、騒音に苦情を訴える住民もおり、警察には数十件の通報が寄せられました。

演奏開始からしばらくして、警察官が到着し、音量を下げるよう警告しましたが、演奏は続けられました。最終曲「ゲット・バック」の演奏中に、エヴァンズが警察官の指示に従い、アンプの電源を切りましたが、ハリスンが自ら電源を入れ直し、エヴァンズもレノンのアンプを再起動。演奏は最後まで続きました。レノンの「オーディションに合格したといいのですが」という冗談で、42分間の演奏は幕を閉じました。

このコンサートは正規の公演ではありませんでしたが、1966年以来となる、一般人がビートルズの生演奏を聴く最後の機会となりました。

音源と映像

演奏は、アップル社の地下スタジオの8トラックレコーダー2台で録音されました。この音源は、アルバム『レット・イット・ビー』に一部収録されましたが、2022年1月には完全版が『Get Back (Rooftop Performance)』としてストリーミング配信が開始されました。

演奏の様子は、10台のカメラで多角的に撮影されました。この映像は、『レット・イット・ビー』映画の一部として公開されましたが、クオリティの問題から長らく完全版は公開されていませんでした。しかし、2021年に公開されたピーター・ジャクソン監督によるドキュメンタリー映画『ザ・ビートルズ: Get Back』で、高画質・高音質に修復された完全版が初めて公開されました。

影響

ルーフトップ・コンサートは、多くのアーティストに影響を与え、様々なオマージュ作品が発表されています。U2のミュージックビデオや、斉藤和義のミュージックビデオなどがその例です。

まとめ

ビートルズのルーフトップ・コンサートは、偶然の産物でありながら、その自由奔放さ、そして音楽への情熱が凝縮された、伝説的な瞬間でした。その音源と映像は、今もなお多くの音楽ファンを魅了し続けています。そして、その影響は、現代の音楽シーンにも確実に受け継がれているのです。

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