ザ・ホエール

ザ・ホエール：孤独と贖罪の物語

2022年公開のアメリカ映画『ザ・ホエール』（原題：The Whale）は、サミュエル・D・ハンターの同名舞台劇を映画化した感動作です。監督はダーレン・アロノフスキー、主演はブレンダン・フレイザーが務め、彼の圧倒的な演技は第95回アカデミー賞主演男優賞を含む数々の賞を受賞しました。 本作は、病的な肥満を抱える英語教師チャーリーと、彼を取り巻く人々との複雑な人間関係、そして彼の内面世界を深く掘り下げたドラマです。

物語の概要

主人公チャーリーは、病的肥満のため自宅に引きこもり、オンラインで授業を行っています。ウェブカメラは常にオフ、彼の唯一の友人は看護師のリズです。リズはチャーリーの健康を心配し、病院に行くよう勧めますが、チャーリーは経済的な理由を盾にそれを拒否します。そんな彼の元に、新興宗教ニューライフの宣教師トーマスが現れます。リズはニューライフに不信感を抱いています。

チャーリーは、余命幾ばくもないことを知ると、8年ぶりに娘のエリーと再会します。かつてチャーリーは、新たな恋人アランのために妻とエリーを捨てた過去があり、エリーは深い憎しみを抱いています。12万ドルという莫大な預金と引き換えに、エリーはチャーリーのもとに留まります。チャーリーはエリーの学校のエッセイの手直しを引き受けますが、それは思わぬ展開へと繋がっていきます。

リズが抱くニューライフへの嫌悪には、悲しい過去が隠されていました。リズの兄がチャーリーの恋人アランだったのです。アランはチャーリーとの関係を周囲に隠しきれず、家族や教会から激しい迫害を受け、自ら命を絶ったのです。アランを失った悲しみから逃れるように、チャーリーは暴飲暴食に溺れ、病的な肥満へと至ったのです。

物語は、チャーリーとエリー、リズ、そしてトーマスといった登場人物たちの複雑な人間関係を通して、罪悪感、許し、贖罪といった普遍的なテーマを深く探求していきます。エリーはチャーリーを眠らせ、トーマスから過去を告白させ、それを録音します。メアリー（チャーリーの妻）とリズが訪れ、チャーリーが嘘をついた事実が明らかになり、リズは去って行きます。

チャーリーは、ピザの配達人に初めて自分の姿を見られ、衝撃を受け、さらに過食に走ります。オンライン授業で生徒に辛辣な言葉を投げかけ、結果的に仕事を辞めることになります。最後の授業で、初めてウェブカメラをオンにしたチャーリーは、生徒たちに衝撃を与えますが、「正直な言葉こそ重要だ」と言い残し、パソコンを投げ捨てます。

チャーリーの体調は悪化し、リズが再び訪れる中、エリーはチャーリーに激しい怒りをぶつけます。彼女が提出したエッセイが、チャーリーによってすり替えられていたことが発覚したのです。しかし、チャーリーはすり替えられたエッセイを「今まで読んだ中で最も正直なエッセイだ」と評価し、エリーは最終的にエッセイを朗読します。チャーリーは、エリーと見つめ合い、微笑み合った瞬間、静かに息を引き取ります。

製作秘話

本作のキャスティングには、チャーリー役の適任者を探すのに10年以上もの歳月が費やされました。最終的にブレンダン・フレイザーが抜擢されたのは、アロノフスキー監督が彼の過去の作品『復讐街』の予告編に感銘を受けたことがきっかけでした。当初はジェームズ・コーデン主演、トム・フォード監督で制作される予定でしたが、クリエイティブな意見の相違により変更となり、ジョージ・クルーニーも監督を検討したものの辞退しています。

脚本は舞台劇版を基に、時代設定が2009年から2016年に変更されました。これは、ハンターが劇中の出来事を「地震的変化」の前の出来事として位置づけたこと、そしてコロナウイルス流行以前の話であることを明確にするためです。また、トーマスの設定もモルモン教の宣教師からキリスト教の宣教師に変更されています。

撮影期間は約40日。フレイザーは、4時間以上の特殊メイクを施して撮影に臨み、ファットスーツの着脱にも相当の時間を要しました。

評価

Rotten Tomatoesでは、批評家からの高い評価を得ています。ブレンダン・フレイザーの演技が絶賛され、多くの観客の共感を呼んだ作品として、高い評価を受けています。

『ザ・ホエール』は、肥満という社会的な問題だけでなく、家族愛、許し、贖罪といった普遍的なテーマを繊細に描き出した、感動的なドラマです。ブレンダン・フレイザーの魂を揺さぶる演技は必見です。

もう一度検索