シェレンベルクの戦い

シェレンベルクの戦い：スペイン継承戦争の一局面

シェレンベルクの戦いは、スペイン継承戦争中の1704年7月2日に、現在のドイツ・バイエルン州ドナウヴェルト近郊のシェレンベルクで、イングランド・神聖ローマ帝国同盟軍とフランス・バイエルン連合軍が激突した戦いです。

戦いの背景

1703年、フランス軍がライン川を越えてバイエルン軍と合流し、ドナウ川流域を制圧。これは神聖ローマ帝国にとって見過ごせない事態でした。皇帝レオポルト1世は駐英大使ヴラティスラフ伯爵を通じ、イングランド政府に軍の派遣を要請。イングランド軍総司令官マールバラ公ジョン・チャーチルはこれに応じ、1704年4月にオランダへ渡りました。

決戦に消極的なオランダを欺き、フランス軍を牽制しながらドイツへ進軍するという困難な作戦が開始されました。マールバラ公は、ライン川下流域を決戦場と偽ってオランダ政府とフランス軍を欺き、帝国諸侯の援軍を得ながらライン川沿いに進軍。フランス軍を牽制しつつ、6月にはドイツ南部の帝国軍と合流を果たしました。

プリンツ・オイゲンとバーデン＝バーデン辺境伯ルートヴィヒ・ヴィルヘルムとの戦略協議の結果、オイゲンがライン川のフランス軍を釘付けにし、マールバラ公とルートヴィヒ・ヴィルヘルムがドナウ川流域の都市奪還を目指すことになりました。

フランス軍は、ヴィルロワ公フランソワ・ド・ヌフヴィルがライン川の都市ランダウでタラール伯カミーユ・ドスタンと合流。しかし、同盟軍の動きに翻弄され、オイゲンの監視もあり、決戦に踏み切れませんでした。一方、バイエルン選帝侯マクシミリアン2世エマヌエルとフランスの将軍フェルディナン・ド・マルサンは、ドナウ川北岸の都市ディリンゲンに布陣し、同盟軍を待ち構えていました。

戦闘の経過

同盟軍はディリンゲンの連合軍を無視して東進。オーストリアと北ドイツ諸侯との連絡を確保し、バイエルンへの侵攻拠点とするため、ドナウヴェルトを目指しました。ドナウヴェルトには北から東にかけてシェレンベルクという高地が広がっており、ここを制圧すればドナウヴェルトを射程に収めることができました。砦には、マクシミリアン2世の家臣であるヨハン・バプティスト・フォン・アルコ伯爵とイタリア人のマッフェイ侯アレッサンドロ・シピオーネが13000人の兵で籠城していました。

7月2日の夜、同盟軍はシェレンベルクに到着し、直ちに攻撃を開始。ディリンゲンからの増援を恐れた同盟軍は、準備が不十分なまま短期決戦に踏み切りました。丘を登って砦の北側を攻撃したイングランド軍は大きな被害を受け、帝国の将軍リンブルク＝シュテュルム伯ヘルマン・オットー2世が戦死しました。しかし、守備側が兵力を北に集中させたため、北西に進んだルートヴィヒ・ヴィルヘルムの帝国軍が砦に侵入し、バイエルン軍の側面を突きました。イングランド軍も攻撃を続け、バイエルン軍は砦を放棄。同盟軍はシェレンベルクを制圧し、ドナウヴェルトも降伏しました。

戦いの影響

ドナウヴェルトの占領により、同盟軍は帝国との連絡路を確保。ディリンゲンのフランス・バイエルン連合軍は南へ後退し、アウクスブルクへ移動しました。この戦いは、勝利の代償として多くの犠牲を伴ったため、マールバラ公は非難を浴びましたが、バイエルン軍の後退によりドナウ川は同盟軍の手に渡り、帝国は一時的に危機を脱しました。

戦後、マールバラ公はマクシミリアン2世を和睦交渉に引き込むため、バイエルンの略奪を行いながら交渉を打診。しかし、8月にタラールがアウクスブルクの連合軍と合流したことで交渉は打ち切られました。タラールの後を追ってオイゲンも同盟軍に合流し、アウクスブルクから連合軍が出撃、同盟軍も迎え撃つことになります。この後の経過と戦闘前後の両軍の行動については、ブレンハイムの戦いを参照してください。

シェレンベルクの戦いは、その後のブレンハイムの戦いへと繋がる重要な戦いであり、スペイン継承戦争の行方を左右する一因となりました。

参考文献

友清理士『スペイン継承戦争 マールバラ公戦記とイギリス・ハノーヴァー朝誕生史』彩流社、2007年。
デレック・マッケイ著、瀬原義生訳『プリンツ・オイゲン・フォン・サヴォア-興隆期ハプスブルク帝国を支えた男-』文理閣、2010年。

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