シカゴの公共交通機関

アメリカ合衆国イリノイ州シカゴ市およびその周辺地域における公共交通機関は、市民生活や観光、ビジネスにおいて欠かせない重要なインフラです。広大な都市圏を網羅するため、多様な交通手段が連携して機能しています。

主要な交通システム

シカゴ都市圏の公共交通の中心を担うのは、シカゴ地域交通局（Regional Transportation Authority, RTA）の傘下にある主要三機関です。

CTA (Chicago Transit Authority)

シカゴ交通局（CTA）は、主にシカゴ市街地のバス網と鉄道「L」（地下鉄および高架鉄道）を運営しており、ニューヨーク市交通局（MTA）に次ぐ全米第2位の規模を誇ります。特筆すべきは、主要路線での24時間運行体制です。平日には平均約160万人が利用しており、その巨大さが伺えます。

バス事業は、150路線以上、約2,200台の車両で運行されており、1日約100万人以上が利用します。総営業距離は約4,000km、1日の総運行距離は約35万kmに及び、約1万2千カ所の停留所があります。鉄道事業「シカゴ・L」は、8路線、約1,200両の車両で構成され、1日約65万人が利用しています。総営業距離は約360km、1日の総運行距離は約34万kmで、140以上の駅があります。

「シカゴ・L」は、市内の主要な国際空港であるオヘア国際空港（Blue Lineでダウンタウンまで約1時間）とミッドウェー国際空港（Orange Lineでダウンタウンまで約40分）にも乗り入れており、旅行者にとって便利なアクセス手段となっています。

メトラ (Metra)

メトラは、シカゴとイリノイ州郊外を結ぶ通勤鉄道ネットワークです。11路線、200以上の駅があり、シカゴ・ダウンタウンにある4つの主要ターミナル駅を発着しています。また、メトラの路線の一部を利用して、隣接するインディアナ州サウスベンドとの間を結ぶ都市間鉄道「サウスショアー線」も運行されています。かつては、1960年代頃まで、ノースショアー線などの都市間電車もダウンタウンの「L」の環状線に乗り入れていました。

Paceバス

Pace社は、シカゴ郊外の6つの郡で広範囲なバス路線を運営しています。240以上の路線があり、CTAやメトラの駅と連携している場合が多く見られます。運賃は基本的に均一料金制で、回数券や各種定期券も利用可能です。CTAの交通カードもPaceバスで使える互換性がありますが、Pace専用カードはCTAでは使用できません。運行頻度はCTAバスに比べると少なく、路線によっては1日に数本程度の運行となる場合もあります。

RTA (Regional Transportation Authority)

CTA、メトラ、Paceの三つの主要交通機関は、イリノイ州の公団であるシカゴ地域交通局（RTA）によって、その財政管理と運営監視が行われています。RTAは、これらの交通機関を横断する乗換検索サービス「トリップ・プランナー」をオンラインで提供しており、利用者は出発地と目的地を入力することで、最適なルート、時刻、運賃情報を得ることができます。

長距離交通

アムトラック (Amtrak)

全米の主要都市を結ぶ長距離旅客鉄道であるアムトラックにとって、中西部のシカゴは米国鉄道ネットワークの要衝として非常に重要な位置を占めています。シカゴを発着する全てのアムトラック列車は、ダウンタウンのユニオン駅から出発します。

主な行き先は多岐にわたり、中西部方面（イリノイ州各地、ミズーリ州セントルイス、ミシガン州各地、ウィスコンシン州ミルウォーキー、インディアナ州インディアナポリスなど）、北部方面（ワシントンD.C.、ニューヨーク、ボストン）、南部方面（ルイジアナ州ニューオーリンズ、テキサス州サンアントニオ）、西部方面（オレゴン州ポートランド、ワシントン州シアトル）、南西部方面（カリフォルニア州エメリービル、ロサンゼルス）など、全米各地への路線が運行されています。

長距離バス

シカゴ・ダウンタウンからは、他州の主要都市へ向かう長距離バスも多数発着しています。主要なバス運行会社には、グレイハウンドやCoach USA、そして近年利用者を増やしているメガバスなどがあります。メガバスは、ユニオン駅近くに専用の発着所を設けており、デトロイト、ミネアポリス、クリーブランド、カンザスシティ、コロンバス、シンシナティ、メンフィスなど、中西部を中心に広範囲な都市を結んでいます。

その他の交通手段

タクシー

シカゴのタクシーは、メーター制運賃を採用しています。初乗りは一定距離まで定額で、その後は走行距離と経過時間に応じて加算されます。基本料金に加え、複数人乗車時や空港発着時などに規定の追加料金が発生します。ガソリン価格の変動に応じた燃料サーチャージが課されることもあります。チップは料金の10〜15%程度が目安とされています。

ダウンタウン中心部から主要地点への運賃目安として、オヘア国際空港までは約30～35ドル、ミッドウェー国際空港までは約22～28ドル、ユナイテッド・センターまでは約8～10ドル程度です。多くのタクシー会社ではクレジットカード利用が義務付けられていますが、実際には利用を断られるケースも少なくありません。ダウンタウンでは流しのタクシーも多く、比較的容易に捕まえることができます。Yellow CabやFlash Cabなどが主要なタクシー会社として知られています。

無料トロリー

かつてシカゴ市が運行していたレトロ調の無料トロリーバスは、2008年末をもって運行を終了しました。現在、かつての路線のうちネイビー・ピア・ラインのみが、ネイビー・ピアによって毎日無料運行されています。「シカゴ・L」のGrand駅（Red Line）とネイビー・ピアを結ぶルートを循環しています。なお、無料トロリーに使用されていた車両の一部は、現在、有料の観光バスツアーで使用されています。

水上輸送

シカゴ川を利用した水上輸送は、主に観光目的で人気ですが、通勤サービスも提供されています。Shoreline Sightseeing社とWendella Boats社が主な運行会社です。

Shoreline Sightseeing社は、「Shoreline ウォータータクシー」としてユニオン駅/ウィリス・タワー、マグニフィセント・マイル（Michigan Avenue）、ネイビー・ピア、ミュージアム・キャンパスなどを結ぶ路線を、また通勤時間帯にはユニオン駅/ウィリス・タワーとマグニフィセント・マイルを結ぶ「Commuter ウォータータクシー」を運行しています。運行期間は限られており、運賃は区間や利用時間によって異なります。

Wendella Boats社も「シカゴウォータータクシー」を運行しており、ダウンタウン内の主要地点を結ぶほか、週末にはチャイナタウンへの延長運行も行っています。こちらも冬期は運休となります。

シカゴの公共交通ネットワークは、これらの多様な手段が連携し合うことで、都市の広範囲な移動ニーズに応える複雑かつダイナミックなシステムを形成しています。

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