シガレットカード

シガレットカードとは

シガレットカード、または煙草カードと呼ばれるものは、かつて紙巻きタバコのパッケージに特典として封入されていた小さなカードです。これは単なる景品というだけでなく、柔らかいタバコの箱を物理的に補強する役割と、タバコ会社のブランドを消費者に印象づけるための広告媒体としての役割も担っていました。このカードが広く流通したのは、おおよそ1875年から1940年代にかけての期間です。

歴史的背景と発展

シガレットカードの起源は、19世紀後半のアメリカに遡ります。1875年頃、アメリカのタバコ製造会社Allen & Ginterが、人気女優や野球選手、インディアンの酋長、ボクサーといった人物、あるいは国旗や野生動物など、さまざまな主題を描いたカードをタバコ製品に同梱し始めました。これらがシガレットカードの最初期の例とされています。

Allen & Ginterの成功に続き、Goodwin & Companyなど他のタバコ会社も追随し、この習慣はアメリカ国内から、やがてイギリスへと伝播し、最終的には世界各国に広がりました。

イギリスでは、1887年にW.D. & H.O. Wills社が初めてカードを封入しましたが、一般的に最初期の成功例として知られるのは、1893年にJohn Player & Sons社が発行した「Castles and Abbeys（城と修道院）」シリーズです。その後もThomas Ogden社などが「Ships and Sailors（船と船乗り）」シリーズや、1896年には人気の「Cricketers（クリケット選手）」シリーズを発行しました。1906年には、Ogden'sが自社が支援するサッカーチームの選手を描いた、初のフルカラーシリーズを登場させています。

カードのシリーズは通常、25枚から50枚程度の同じテーマに関連した絵柄で構成されていましたが、中には100枚を超える大規模なセットも存在しました。特に人気があったテーマは、当時の美人女優や映画スター、モデルを描いたもの、野球、サッカー、クリケットといったスポーツ選手、動植物や風景などの自然、軍隊の制服や英雄、紋章、そして国内外の有名な都市の景観など多岐にわたります。

カナダでは、Imperial Tobacco Canada社が1924年から1925年にかけて、初のナショナルホッケーリーグ（NHL）を題材にしたアイスホッケーカードを発行しました。このセットは36種類の選手カードで構成され、この時期に同社が発行した唯一のシリーズでした。

戦時中の廃止と現代の状況

当初はシルクに印刷され、後に紙製になったシガレットカードですが、第二次世界大戦中には、戦費調達と物資、特に紙資源の節約のために、その製造・封入が中止されました。戦後、かつてのような規模でシガレットカードが復活することはありませんでした。

しかし、完全に姿を消したわけではありません。イギリスでは、中小メーカーのCarreras社が1950年代から1960年代にかけて「Turf」ブランドで、1976年には「Black Cat」ブランドで限定的にシガレットカードを復活させました。そして2000年に入り、アメリカの大手タバコ会社であるR.J. Reynolds Tobacco Companyが、「ドラール（Doral）」ブランドで再びシガレットカードの封入を開始しました。これは1940年代以降、アメリカの大手メーカーとしては初の試みとして注目を集めました。ドラールのカードは「Celebrate America」シリーズとして、アメリカの各州、祝祭日、自動車、国立公園、20世紀の出来事などをテーマに発行されました。また、R.J. Reynoldsの別ブランド「アメリカンスピリット」のカードには、風力発電所などに関する情報が盛り込まれたものもありました。

さらに、Philip Morris USAは「Information For Smokers」と題したシリーズで、喫煙者に対してタバコの有害性に関する情報、例えば「ライト」や「ウルトラライト」といった低タール・低ニコチンを謳う製品でも、一般的な「フルフレーバー」と同等の有害性があることなどを啓発するカードを封入し始めました。これは、シガレットカードが単なる宣伝やおまけから、情報提供のツールへと変化した一例と言えるでしょう。

文化的・収集品としての価値

シガレットカードに描かれた多様な絵柄や内容は、単なる歴史的な品物にとどまらず、当時の大衆文化や社会の流行、文化的コードを読み解く上で非常に貴重な資料となっています。スポーツ史や軍事史の専門家が、カードに描かれたユニフォームや装備の細部から歴史的考察を行うといった研究事例も見られます。

また、シガレットカードは、その希少性や歴史的背景から、現在では熱心なコレクターたちの間で高値で取引される収集品となっています。特に有名なのが、20世紀初頭の野球選手ホーナス・ワグナーのカードです。ワグナーは熱心な禁煙家であったため、自分の肖像がタバコの販売に使われることに強く反対しました。そのため、このカードの発行枚数は極めて少なくなり、その希少性からコレクターの間で幻の逸品とされています。2007年には、このカードの1枚がオークションで280万ドル（当時のレートで約3億円以上）というシガレットカードとしては史上最高額の一つとされる価格で落札され、大きな話題となりました。

他にも、Taddy社が発行した、コレクターの間で「道化師と曲芸師」として知られるシリーズの中の特定のカードは、現存数が極めて少なく、オークションに出品されるたびに高額で取引されています。また、Mecca cigarette社のカードで、幼少期の事故で肘から先がないハンデキャップを克服し、「ハンドレス・ビリヤードプレーヤー」として活躍したジョージ・サットンを描いたものは、その特異な背景から注目を集めています。

著名なコレクションと分類

シガレットカード収集の世界で、公に認知されている最大のコレクションを築いた人物として、イギリスの実業家エドワード・ウォートン＝タイガーが挙げられます。彼は熱心なコレクターであると同時に、シガレットカード愛好家の団体である大英カートフィリック協会（Cartophilic Society of Great Britain）の会長も務めました。彼の収集したカードは、その規模においてギネス世界記録にも認定されており、1995年に彼が死去した後、その膨大なコレクションは大英博物館に遺贈されました。ウォートン＝タイガーは、自伝の中でシガレットカード収集への深い情熱を語っており、たとえそれが世間から変わった趣味だと思われようとも、自身は全く気にしないと述べています。

長年にわたり多種多様なシガレットカードが発行されたため、それらを体系的に整理・分類するための試みもなされています。特に、19世紀のアメリカで発行されたカードに関しては、ジェファーソン・バーディックによって作成された「American Card Catalog（ACC）」に基づいた分類方法が広く用いられています。このカタログでは、発行元のタバコ会社とカードの種類によってシリーズが体系的にコード化されており、例えば19世紀のシリーズは「N」で始まる番号（N1-N694）が与えられ、20世紀のシリーズは「T」で始まる番号（T1-T235）で識別されています。このような分類体系があることで、コレクターや研究者は目的のカードを探しやすくなっています。

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