シクロ(18)炭素

シクロ[18]炭素（cyclo[18]carbon）は、分子式C18で表される炭素の同素体であり、シクロオクタデカ-1,3,5,7,9,11,13,15,17-ノナインとも呼ばれます。この分子は、18個の炭素原子が環状に結合しており、その結合様式は特異的です。具体的には、三重結合と単結合が交互に連なったポリイン構造、あるいはシクロ炭素構造を形成しています。

理論的な観点から見ると、シクロ[18]炭素は、熱力学的に安定であると予測される最小のシクロ[n]炭素です。計算によると、この分子のひずみエネルギーは1モル当たり72 kcalと見積もられています。ただし、安定であるとはいえ、温度が122 K以上になると分解し、グラファイトへと変化することが知られています。

2019年には、IBMとオックスフォード大学の共同研究チームが、シクロブタノン構造を基点として、電気化学的な脱カルボニル化という手法を用いることで、固体状態でのシクロ[18]炭素の合成に成功したと発表しました。この成果は、長らく理論上の存在と考えられてきたシクロ炭素の合成を実証した画期的なものでした。

その後、スペインの研究者チームが、コンピュータシミュレーションを用いてこの分子の構造と電気的な特性を詳細に調査しました。その結果、シクロ[18]炭素は電子受容体としての性質を持つことが明らかになりました。これは、この分子が他の分子から電子を受け取る能力が高いことを意味し、電子デバイスなどへの応用が期待される要因の一つとなっています。

IBMの研究者たちは、合成されたシクロ[18]炭素の電子構造についても分析を行いました。その結果、この分子が連続した二重結合を持つクムレン型構造ではなく、三重結合と単結合が交互に並んだ構造であることが判明しました。この特徴的な結合様式は、分子の電子状態に大きな影響を与え、シクロ[18]炭素が半導体としての特性を示す可能性を示唆しています。

シクロ[18]炭素の合成と特性解明は、基礎化学の分野だけでなく、材料科学や電子工学といった応用分野にも大きな影響を与えています。この分子のユニークな構造と電子特性は、これまでにない新しい機能を持つデバイスの開発を可能にするかもしれません。今後の研究の進展が注目されます。

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