シクロヘキサン

シクロヘキサン：性質、構造、用途、危険性

シクロヘキサン (C₆H₁₂) は、環状構造を持つ炭化水素の一種で、常温では無色の揮発性液体です。分子量は84.16 g/molで、ベンゼンの水素化によって工業的に大量生産されています。極性溶媒には溶けにくい一方、多くの有機溶媒には容易に溶解します。その特性から、様々な工業用途で利用されていますが、可燃性で麻酔作用や皮膚刺激性も持つため、取り扱いには注意が必要です。

シクロヘキサンの立体構造

シクロヘキサンの分子構造は、六員環が特徴です。しかし、平面構造ではなく、環状構造のひずみを最小限にするため、いくつかの立体配座をとります。その中でも、最も安定な立体配座は「いす形」です。いす形は、炭素原子が立体的に配置され、立体障害を最小限に抑えています。他に舟形、ねじれ舟形、半いす形などの立体配座も存在しますが、エネルギー的に不安定で、通常は少量しか存在しません。

いす形構造では、環上の水素原子は二つの異なる位置に存在します。環平面に対して垂直方向に位置する水素を「アキシアル（軸位）」、環平面に対して平行方向に位置する水素を「エクアトリアル（赤道位）」と呼びます。置換基を持つシクロヘキサン誘導体では、置換基がアキシアル位かエクアトリアル位かによって、分子の性質や反応性が大きく変化します。一般的に、かさ高い置換基は立体障害を避けるためにエクアトリアル位に位置することが多いです。環反転と呼ばれる現象によって、アキシアル位とエクアトリアル位は互いに変換可能です。

シクロヘキサンの性質

シクロヘキサンは可燃性液体で、引火性が高いです。また、高濃度では麻酔作用を示し、吸引すると頭痛や意識障害を引き起こす可能性があります。低濃度では臭いを感じにくいという特徴も持っています。皮膚への長時間の接触は、皮膚炎などの皮膚障害を引き起こす可能性があります。そのため、取り扱いには十分な注意が必要です。消防法では危険物第四類第一石油類に指定されています。

シクロヘキサンの製法と用途

シクロヘキサンは主に、ベンゼンをニッケルやパラジウム触媒を用いて水素化することで工業的に製造されます。また、石油精製の過程で副生するメチルシクロペンタンから、触媒を用いた異性化反応によってシクロヘキサンを得ることも可能です。

工業的には、シクロヘキサンは主にシクロヘキサノンやシクロヘキサノールの中間体として使用されます。これらの化合物は、ナイロン6やナイロン6,6などの合成繊維の原料であるε-カプロラクタム、アジピン酸、ヘキサメチレンジアミンなどの製造に不可欠です。 シクロヘキサン自体は、有機溶媒として洗浄液や接着剤などに使用されます。また、防毒マスクの吸収缶の試験用ガスとしても利用される場合があります。

安全性への配慮

シクロヘキサンの取り扱いには、適切な安全対策が必要です。可燃性、麻酔作用、皮膚刺激性などを考慮し、換気のよい場所で取り扱うことが重要です。作業時は、保護手袋、保護眼鏡などを着用し、吸入しないよう注意が必要です。もし、大量に吸入したり、皮膚に付着したりした場合は、直ちに医療機関に相談する必要があります。

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