シコルスキー S-92

シコルスキー S-92：世界を繋ぐヘリコプター

シコルスキーS-92は、アメリカを拠点とするシコルスキー・エアクラフト社が中心となり、日本、ブラジル、スペイン、台湾など複数の国と協力して開発された、多用途大型ヘリコプターです。1998年の初飛行以来、その高い信頼性と多様な運用性から世界各国で活躍しており、民間輸送から軍用任務まで幅広く対応できる点が大きな特徴となっています。

開発と歴史

S-92の開発構想は1992年頃に始まり、1995年から本格的な開発が始まりました。開発にあたっては、シコルスキー社の豊富なヘリコプター開発経験が活かされ、先行機種であるS-70シリーズの技術をベースに、より高度な性能と安全性を追求しました。日本からは三菱重工業が参加し、機体の胴体部分の開発と製造を担当。その後、胴体製造はインドの企業に移管されました。2002年にはアメリカ連邦航空局（FAA）の型式証明を取得、本格的な運用が始まりました。

機体設計と性能

S-92は最大19名（最大22名）の乗客を輸送可能な19人乗りの大型ヘリコプターです。「ヘリバス」の愛称で知られ、その広いキャビンはLD3コンテナ3個を搭載できるほどの広さを誇ります。4枚のローターブレードは後退角と下半角が付けられており、振動の低減と揚力の向上を実現しています。機体後部には大型のスポンソン（補助フロート）が装備され、安定性を高めています。コックピットは最新のグラスコックピットを採用し、操縦士の負担を軽減しています。

軍用と民間用途

S-92は民間用途を優先して開発されましたが、軍用型も開発されており、世界各国の軍隊で採用されています。カナダ軍では哨戒ヘリコプターCH-148 サイクロンとして28機が導入され、対潜装備などの武装も搭載されています。韓国では大統領専用機として3機が導入された他、韓国海洋警察庁も捜索救難や緊急医療サービスなどに使用しています。アメリカ軍では、大統領専用ヘリコプター（VH-92、愛称：パトリオット）として21機が採用され、運用されています。アメリカ海兵隊での大統領専用ヘリコプター選定においては、一旦他機種に敗れたものの、その後、S-92が採用されることとなりました。

各型

S-92には複数の型式が存在します。

S-92A: 民間向けの汎用輸送・旅客機型。
S-92A+: 既存のS-92A型を改造し、最大離陸重量を向上させた型。
S-92B: 新規製造時より高出力エンジンを装備し、最大離陸重量を向上させた型。
H-92: 軍用型。愛称はスーパーホーク。
VH-92: アメリカ海兵隊が導入した大統領専用ヘリコプター。愛称はパトリオット。

日本での運用

日本では警視庁航空隊がS-92Aを1機運用していましたが、2019年の台風被害による水没事故の後、退役しています。

性能諸元（S-92A）

参考文献

Leoni, Ray D. Black Hawk, The Story of a World Class Helicopter, American Institute of Aeronautics and Astronautics, 2007. ISBN 978-1-56347-918-2.

シコルスキーS-92は、その高い信頼性と多様な運用性から、今後も世界各国の様々な場面で活躍していくヘリコプターであると言えます。

もう一度検索