シチリア晩祷戦争

シチリア晩祷戦争：地中海を揺るがした13世紀末の覇権争い

1282年から1302年にかけて、シチリア島を舞台に繰り広げられたシチリア晩祷戦争は、中世ヨーロッパ史において重要な出来事の一つです。この戦争は、単なる領土争いではなく、アンジュー家とアラゴン家という、ヨーロッパにおける主要勢力の覇権をかけた壮絶な闘争であり、教皇やフランス王までも巻き込む複雑な国際紛争へと発展していきました。

戦争の背景：シチリア島の支配をめぐる争い

12世紀初頭、ルッジェーロ2世がシチリア王国を統一して以来、シチリア島は南イタリアを含む広大な領土を治める強大な王国となっていました。しかし、フリードリヒ2世の死後、その支配は不安定なものとなり、1266年にはアンジュー伯シャルル（後のシャルル1世）がシチリア島に侵攻し、マンフレーディを駆逐して支配下に置きました。

フランスによる統治は、シチリアの人々にとって重圧となるものでした。高圧的な支配と残酷な行為は、シチリアの人々の反感を募らせていきます。そして、1282年3月30日、パレルモ郊外で発生したフランス兵によるシチリア人女性への嫌がらせが、大規模な反乱、いわゆる「シチリア晩祷」の引き金となりました。この晩祷は、4000人ともいわれるフランス人の虐殺へと発展し、シチリア全土に反乱の波が広がっていきました。

アラゴンの介入と戦争の拡大

この反乱の渦中に、アラゴンのペドロ3世が登場します。ペドロ3世は、亡くなったシチリア王マンフレーディの後継者としての権利を主張し、反乱軍を支援することを決意しました。ペドロ3世は、シチリア人からの要請を受け入れ、自らシチリア王を名乗り、シャルル1世と対決姿勢を示しました。

シャルル1世は、メッシーナを拠点に反乱軍と戦いますが、ペドロ3世の援軍が到着すると、シチリア島からの撤退を余儀なくされます。この時点で、シチリア晩祷戦争は、単なるシチリア島内での反乱から、アンジュー家とアラゴン家の全面的な戦争へと発展したのです。

戦争の激化と新たな局面

ペドロ3世は、シチリア島を掌握した後、カラブリア海岸へと進出し、勢力を拡大していきます。シャルル1世は、決闘によって紛争を解決しようと提案しますが、この試みは失敗に終わりました。一方、アラゴン海軍の提督、ルッジェーロ・ディ・ラウリアは、イタリア海域で活躍し、アンジュー家海軍を次々と撃破しました。マルタの戦い、ナポリ湾の海戦での勝利は、アラゴンの優勢を決定づけました。

しかし、戦争はシチリア島のみならず、カタルーニャ地方へと波及します。1284年、教皇マルティヌス4世は、フランス王フィリップ3世にアラゴン王国への遠征を呼びかけました。フランス軍はカタルーニャに侵攻しますが、激しい抵抗に遭い、ジローナなどの都市を攻略するものの、大きな成果を収めることができませんでした。フィリップ3世は、戦争中に病死し、フランス軍は撤退を余儀なくされました。

和平への道と新たな紛争

ペドロ3世もまた、戦争中に病死し、その後もアラゴンとアンジュー家の間では戦闘が続きました。しかし、1291年のタラスコン条約によって、アラゴンと教会との和解が成立し、戦争は終結に向かいました。

しかし、新たな紛争が勃発します。タラスコン条約によってシチリアはシャルル2世に与えられることになりますが、ペドロ3世の子、フェデリーコ2世がシチリア王を名乗り、アンジュー家と対立。この紛争は、1302年のカルタベッロッタの和平によって、フェデリーコ2世がシチリア王、シャルル2世がナポリ王として認められることで終結しました。

シチリア晩祷戦争の意義

シチリア晩祷戦争は、地中海世界における勢力図を大きく変えた歴史的な出来事でした。この戦争によって、アラゴン王国は地中海における存在感を高め、一方、アンジュー家の勢力は衰退しました。また、この戦争は、教皇権と世俗権力の関係、民族意識の高まりなど、様々な側面から考察されるべき複雑な出来事です。この戦争の研究を通して、中世ヨーロッパの政治、軍事、社会、文化など、多様な側面を理解することができます。

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