シッパル

シッパル：古代メソポタミアの宗教都市

シッパル（シュメール語: 𒌓𒄒𒉣𒆠 / Zimbir）は、古代メソポタミア（バビロニア）で栄えた都市であり、その起源は前4千年紀のウルク時代にまで遡ります。現在のイラク、バグダード県のユスフィヤに近いテル・アブー・ハッバーフ遺跡が、古代シッパルに該当すると考えられています。ユーフラテス川とその支流が近接する地域に位置し、姉妹都市シッパル＝アムナヌム（現在のテル・エッ＝デール）がユーフラテス川を挟んだ西岸に存在していました。厳密には、本記事で述べるシッパル市はシッパル＝ヤフルルムと呼ばれていました。

歴史

シッパルはシュメール時代から繁栄し、数千点もの楔形文字粘土板文書が発掘されていますが、その歴史については、まだ解明されていない部分が多く残されています。

シュメール神話では、シッパルは大洪水以前の時代に王権が天から降りた都市の一つとされています。『シュメール王名表』には、シッパル王エンメンドゥルアナが、洪水以前の支配者の一人として記録されています。

遺跡から発見された土器類は、シッパルへの居住がウルク期初期にまで遡ることを示唆しています。大規模な居住は、前3千年紀の初期王朝時代、前2千年紀の古バビロニア時代、そして前1千年紀の新バビロニア時代に行われました。また、ハカーマニシュ朝（アケメネス朝）、セレウコス朝、アルシャク朝（アルサケス朝）時代にも、小規模ながら人々が住み続けていました。

シッパルは太陽神（シュメール語：ウトゥ、アッカド語：シャマシュ）崇拝の中心地であり、主神殿エ・バッバルが置かれていました。古バビロニア時代には、シャマシュ神に捧げられたナディートゥと呼ばれる女性たちが住む「修道院」のような施設が存在していました。この施設には王女も含まれており、発掘調査によってその住居群と見られる遺構が見つかっています。宗教的中心地であったため、多くの王がこの都市での建設活動について記録を残しています。スムラエル王は29年の治世中にシッパルの市壁を建設し、ハンムラビ王も統治第23年と43年に市壁の基礎を築き、建設を行いました。また、ハンムラビの後継者サムス・イルナも、シッパルの市壁建設に尽力しました。ネブカドネザル2世とナボニドゥスは、シャマシュ神殿エ・バッバルを修復したと記録しています。

古バビロニア時代のシッパルは、羊毛生産の中心地でした。ハンムラビ王が制定したハンムラビ法典の石碑は、恐らくシッパルに建てられたと考えられています。シャマシュは正義の神でもあり、ハンムラビ法典碑の最上部には、シャマシュ神がハンムラビ王に権限を授ける様子が描かれています。また、前19世紀末までに、シッパルは最高級の古バビロニアの円筒印章を生産していました。

シッパルは『旧約聖書』に登場するセパルワイムに相当するという説があり、双数形で言及されていることが、この都市が2つの部分からなることを示唆していると考えられています。

古典古代の伝承

ヘレニズム時代、前3世紀にバビロニアの歴史を著したベロッソスは、シュメール神話における洪水伝説の主要人物であるクシストロス（ジウスドラ）が、洪水以前の世界の記録をシッパルに埋めたと伝えています。これは、シッパルという名前が「書く」を意味するsipruという語と関係していると考えられたためでしょう。また、アビュディノスによれば、ネブカドネザル2世はシッパルの付近に巨大な貯水池を掘ったとされています。

大プリニウスは、『博物誌』の中でHippareniと呼ばれるカルデア人の一派に言及しており、この名前はシッパルを指すものだと考えられています。しかし、この見解には異論も唱えられています。

考古学

シッパルの遺跡テル・アブー・ハッバーフは、約100ヘクタールの面積を持ち、2つの遺丘（テル）から構成されています。この遺跡は1860年代に初めてヨーロッパの学者によって記録され、1880年から1881年にかけてホルムズド・ラッサムによって初めて発掘調査が行われました。この発掘は大英博物館のためのもので、18か月間続けられ、シャマシュ/ウトゥ神殿の粘土板文書を含め、数千点もの粘土板文書が発見されました。

シッパルで発見された粘土板文書群は大英博物館に収蔵され、今日まで研究が行われています。しかし、発掘記録が作成されておらず、発見場所も記録されなかったため、粘土板文書がシッパル＝アムナヌムから見つかったものなのか、シッパル＝ヤフルルムから見つかったものであるのか判別することは困難になっています。シッパルで発見された粘土板文書の中には、一般市場での売買を通じて大英博物館やペンシルベニア大学などに収蔵されたものもあります。

テル・アブー・ハッバーフ遺跡が古代のシッパルであることは、1885年にテオフィルス・ピンチェスによって特定されました。1894年にはジャン＝ヴァンサン・シャイルによって短期間の発掘が行われ、古バビロニア時代の粘土板文書が発見され、イスタンブル博物館に収蔵されました。1972年から1973年にかけては、ベルギーのチームが発掘調査を行っています。また、1977年からは、バグダード大学芸術学部のイラク人考古学者たちが、ワリード・アル＝ジャディルとファルーク・アル＝ラウィーの指揮の下、テル・アブー・ハッバーフで発掘調査を行っています。2000年以降は、ドイツ考古学研究所も彼らに加わっています。

アンドリュー・ジョージ教授によれば、『ギルガメシュ叙事詩』の一部を含む楔形文字文書は、シッパルで発見されたものである可能性が高いとされています。

シッパルの遺跡はバグダードから比較的近いため、違法な発掘の標的となっています。

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