ハンムラビ

ハンムラビ：バビロニア帝国の礎を築いた王と、その法典

ハンムラビは、古代メソポタミアにおいてバビロン第6代王として君臨し、後にバビロニア帝国初代皇帝となった人物です。アムル人出身で、紀元前18世紀に活躍しました。彼の名は、楔形文字文献に「ḪA-AM-MU-RA-BI」または「ḪA-MU-RA-BI」と表記されています。この表記から、名前の由来や意味をめぐって様々な解釈がなされています。

ハンムラビの名前の謎：解釈の多様性

楔形文字はシュメール語表記を基に発展したため、セム語系の言語であるアッカド語やアムル語を表記する際には、音素の区別が曖昧になる問題がありました。ハンムラビの名前も例外ではなく、その解釈には複数の説が存在します。

名前の前半「ḪA-AM-MU」については、「義理の父」を意味するḥamuとする説と、「父方のおじ」を意味する̔mmuとする説があります。マリ文書における表記様式から、後者の解釈が有力視されています。これはアムル人の人名に、親族関係を表す語彙が用いられる傾向があることとも符合します。

後半の「RA-BI」については、rabiと読んで「偉大なる」という意味とする説と、rāpiと読んで「治療者」という意味とする説があります。前者の説は、楔形文字表記の慣習や、他の文献での表記を根拠としています。後者の説は、ウガリト文字による表記例を根拠としています。

これらのことから、ハンムラビの名前は「（父方の）おじさん（と呼ばれる神）は偉大である」または「（父方の）おじさん（と呼ばれる神）は治療者である」と解釈できることになります。

イシン・ラルサ時代とメソポタミア統一

ハンムラビの父シン・ムバリトの治世下、バビロンはまだ小さな王国でした。周囲にはラルサ、アッシリア、エラムといった強国がひしめきあい、メソポタミア全域は激しい勢力争いの渦中にありました。

紀元前1792年、ハンムラビはバビロン王位を継承しました。当初はイシン、ラルサ、マリといった強国に挟まれた不利な状況でしたが、巧みな外交と軍事力によって徐々に勢力を拡大していきます。アッシリアとの同盟を結び、ラルサ、イシンを攻略、そしてマリを滅ぼすことでメソポタミアを統一し、バビロニア帝国を建国しました。

ハンムラビ法典：古代文明の法体系

ハンムラビは、彼の名を不朽のものとした『ハンムラビ法典』を制定しました。これは、人類最古の法典の一つとして知られています。この法典は、被害者と加害者の身分によって刑罰が異なるなど、現代の感覚からは残酷に見える部分も多いですが、法を体系化しようとした試みは、文明の発展に大きな意義を持っていました。「目には目を、歯には歯を」という有名な言葉も、この法典に起源を持つとされています。

ハンムラビは法典制定以外も、灌漑施設の改良など、バビロンの発展に尽力しました。

ハンムラビの最期とその後

ハンムラビは紀元前1750年頃（諸説あり）に亡くなりました。彼の死後も、バビロニア帝国はしばらく続きましたが、紀元前1531年にヒッタイトの侵攻を受け壊滅しました。その後カッシート人がバビロンを支配し、ハンムラビ法典は400年以上に渡り尊重されました。

ニムロデとの関連性

一部の学者は、ハンムラビを旧約聖書のニムロデと同一視する説を唱えています。「偉大なるハム」という解釈も存在し、ニムロデがノアの息子ハムの孫であるという記述と結び付けられています。

ハンムラビの治世は、古代メソポタミアの歴史において重要な転換点となりました。彼の法典は、後世の法制度に影響を与え続け、古代オリエント文明の発展に貢献したと言えるでしょう。

もう一度検索