シティ・オブ・ベナレス

シティ・オブ・ベナレス：悲劇の疎開船

「シティ・オブ・ベナレス」は、1936年にイギリスのエラーマン・ライン社のために建造された客船です。平時はインド航路で活躍しましたが、第二次世界大戦勃発後、その運命は大きく変わります。イギリス本土がドイツの空襲にさらされる中、子供たちを安全なカナダへと疎開させるという重要な役割を担うことになったのです。

建造と平時の運航

本船は、スコットランドのグラスゴーにあるバークレー・カール造船所で建造されました。1935年8月に進水し、1936年10月に竣工。全長約148メートル、幅約19メートルで、蒸気タービンエンジンを搭載し、15ノットの速力を発揮しました。1936年12月にはボンベイ（現ムンバイ）に向けて処女航海に出発し、インド航路の客船として活躍しました。

最後の航海と悲劇

1940年9月、「シティ・オブ・ベナレス」は90人の子供たちを含む疎開者を乗せ、リヴァプールからカナダへと向かいました。護送船団の一隻として航行していましたが、護衛艦が離脱した後、ドイツの潜水艦U-48の攻撃を受けます。1940年9月18日、U-48が発射した魚雷が船尾に命中し、同船は沈没。この悲劇により、子供77人を含む260人もの命が失われました。

沈没の影響

「シティ・オブ・ベナレス」の沈没は、イギリス社会に大きな衝撃を与えました。特に、多数の子供たちが犠牲になったことは、人々の心を深く傷つけました。この事件を受けて、イギリス政府は海外への疎開計画を一時停止し、その安全性を再検討することになります。また、この悲劇は、戦争の残酷さを改めて認識させ、人々に平和への願いを強く抱かせました。

その後

「シティ・オブ・ベナレス」を撃沈したU-48の艦長、ハインリヒ・ブライヒロートは、戦後、戦争犯罪の疑いで起訴されました。ブライヒロートは、子供たちが乗船していたことを知らなかったと主張し、謝罪を拒否しました。しかし、この事件は、戦争の悲劇を象徴するものとして、長く記憶されることになりました。

関連作品

「シティ・オブ・ベナレス」の沈没は、多くの書籍や演劇の題材となっています。ラルフ・パーカーのノンフィクション作品『Children of the Benares, A War Crime and its Victims』や、ジェイムズ・ヘネガンの小説『リヴァプールの空』などが代表的です。これらの作品を通して、悲劇の記憶は語り継がれています。

「シティ・オブ・ベナレス」の悲劇は、戦争の残酷さと平和の尊さを私たちに教えてくれます。二度とこのような悲劇が繰り返されないよう、歴史から学び、平和な社会を築いていくことが私たちの使命です。

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