シトロエン・DS3 WRC

シトロエンDS3 WRC：WRC黄金時代を彩ったフランスの雄

シトロエンDS3 WRCは、2011年から2016年にかけて世界ラリー選手権（WRC）で活躍した、シトロエン・トータル・アブダビ・WRT（後のシトロエン・レーシング）が開発・投入した競技専用車両です。2011年から導入された新しいレギュレーションに対応するため、シトロエンはS2000車両をベースにDS3 WRCを開発しました。開発責任者は、C4 WRCでも手腕を発揮したクサビエ＝メステラン・ピノン氏です。

レギュレーション変更への対応と技術的特徴

新レギュレーションでは、エンジン排気量が2.0Lから1.6Lに、トランスミッションがパドルシフト式のセミオートマチックからフロアシフト式のシーケンシャルMTに変更されました。また、センターデフが廃止され、ハンドブレーキ使用時にリアの駆動をカットする機構が採用されました。

DS3 WRCの特徴として、フランス製の油圧式パワーステアリングやサデフ製のアルミハウジングトランスミッション、ミシュランタイヤを採用している点が挙げられます。特にエンジンは、フォードやミニが市販車用エンジンを流用したのに対し、シトロエンは競技用に専用設計されたアルミブロックエンジンを採用し、高いパフォーマンスを実現しました。

サスペンションは、フォード・フィエスタRS WRCのような傾斜配置ではなく、クサラWRC以来の伝統である直立配置を採用。ストローク量は多くありませんが、フリクションの低減とターマックでの高いパフォーマンスを目指した設計となっています。

セバスチャン・ローブ、そして黄金時代

2010年9月30日、パリモーターショーで公開されたDS3 WRCは、セバスチャン・ローブ、ダニ・ソルド、セバスチャン・オジェらトップドライバーとテストドライバーのフィリップ・ブガルスキーによって徹底的にテストされました。

2011年から2012年にかけては、セバスチャン・ローブとダニエル・エレナ組が圧倒的な強さを発揮。ドライバーズ、コドライバーズ、マニュファクチャラーズの3タイトル全てを連覇するという偉業を達成しました。フォードのミッコ・ヒルボネンとヤリ-マティ・ラトバラの猛追を振り切り、その実力を世界に示しました。

2012年には、ヒルボネンがシトロエンに移籍。彼のアイデアにより、グラベル路面に最適化されたサスペンションが導入され、ローブはラリー・フィンランドで地元勢を圧倒的な強さで制しました。しかし、前人未到の9連覇を達成したローブはWRCへの興味を失い始め、セミリタイアを表明。チームオーダーを巡る内紛により、ローブの後継者候補と目されていたオジェも離脱。シトロエンの黄金時代は幕を閉じました。

黄金時代後の苦闘とC3 WRCへのバトンタッチ

2013年以降は、エースドライバーをヒルボネンに据えましたが、フォルクスワーゲン勢の前に苦戦を強いられました。2014年は未勝利に終わり、2015年にはクリス・ミークがラリー・アルゼンチンでシーズン唯一の勝利を挙げました。2016年は経営難の影響でWTCCにリソースを集中し、スポット参戦に留まりましたが、ミークが2勝を挙げました。

2017年、レギュレーションが一新されると、DS3 WRCの後継車となるC3 WRCにバトンタッチ。以降は、プライベーターによってラリーやラリークロスで使用されるようになりました。

派生車：DS3 RRC、DS3 XL、WTCCテスト車両

DS3 WRCには、いくつかの派生車が存在します。

DS3 RRC: スーパー2000規定に準拠したカスタマー向けマシン。エンジン出力は275馬力に抑えられています。PH Sportから参戦したロバート・クビサがWRC2で初代王者となりました。
DS3 XL: ラリークロス参戦のために開発されたマシン。レッドブルの提案を受けて、ハンセン・モータースポーツが設計。エンジン出力は545馬力にまでチューニングされています。
* WTCCテスト車両: WTCC参戦に向けて、DS3 WRCを前輪駆動化したテスト車両も存在しました。

結論

シトロエンDS3 WRCは、WRCの歴史に燦然と輝く名車です。セバスチャン・ローブというレジェンドドライバーを筆頭に、多くのドライバーとスタッフの努力によって生み出されたその輝かしい実績は、今後も語り継がれることでしょう。その技術的特徴やWRCでの活躍、そして派生車についても、改めてその偉大さを認識することができました。DS3 WRCは、まさにWRC黄金時代を象徴する存在と言えるでしょう。

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