シトロエン・GS

シトロエンGS/GSA：フランスが生んだ革新的な小型車

シトロエンGS/GSAは、1970年から1986年にかけてフランスの自動車メーカー、シトロエンが製造した小型乗用車です。同社はそれまで、空冷2気筒エンジンの2CVと大型車Dシリーズという、大きく異なる車格の車種しか製造していませんでした。この両者の間のギャップを埋めるべく、GSは企画・開発されました。1960年代後半、2CVとDシリーズの老朽化が進み販売不振に陥っていたシトロエンにとって、GSはまさに起死回生のモデルだったと言えるでしょう。

開発の背景とGSの特徴

GSの開発には、シトロエンが1965年に吸収合併したパナール社の技術が活かされました。パナールは独創的な技術を持つメーカーでしたが、量産車種としては成功を収められませんでした。GSはパナール車の経験を基に、空冷水平対向エンジンという技術を継承しつつも、新たな小型車の開発を目指しました。

GSの最大の特徴は、シトロエンのフラッグシップモデルであるDSから採用されていたハイドロニューマチックサスペンションです。このサスペンションにより、優れた乗り心地とロードホールディングを実現しました。また、空力性能にも優れ、当時としては非常に広い室内空間とラゲッジスペースを確保していました。このコンセプトは後のCXにも受け継がれることになります。

GSは2ボックススタイルのボディでしたが、初期モデルはハッチバックではなく、独立したトランクを持っていました。全長4,120mm、全幅1,608mm、全高1,349mmというボディサイズに対して、搭載エンジンは当初1,015ccと、比較的排気量が小さめでした。しかし、優れた設計とハイドロニューマチックサスペンションのおかげで、高速巡航性能や操縦性、乗り心地は非常に高く評価されました。1971年にはヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞し、その高い完成度を証明しました。

メカニズム：空冷水平対向エンジンとハイドロニューマチックサスペンション

GSはシトロエン伝統の前輪駆動方式を採用していました。エンジンは、2CVやパナール車と同様に空冷水平対向エンジンでしたが、GSでは4気筒SOHCに近代化され、直進安定性を高めるためフロントアクスルの前に縦置きされていました。当時の車としては珍しい空冷エンジンでしたが、GSでは大きな問題とはなりませんでした。排気量は、1,015cc、1,129cc、1,222ccの3種類が用意されていました。

サスペンションは、前輪がダブルウィッシュボーン、後輪がトレーリングアーム式で、いずれもハイドロニューマチックサスペンションによって制御されていました。このシステムにより、車高調整機能や優れたロードホールディング、快適な乗り心地を実現しました。ブレーキは全車4輪ディスクブレーキで、当時としては珍しい装備でした。特にフロントブレーキは、DSと同様にセンターピボット式を採用することで、バネ下重量の軽減にも貢献していました。

スタイリング：空力性能とエレガンスを両立

GSのスタイリングは、シトロエンのチーフデザイナー、ロベール・オプロン率いるチームによってデザインされました。空力性能の高さも特徴で、そのスタイルは後のCXにも受け継がれることになります。リアシートは折り畳み式ではありませんでしたが、独立したトランクを持っていました。ハッチバック化されたのは1979年に登場した発展型GSAからです。

GSビロトール：ロータリーエンジン搭載モデル

シトロエンはロータリーエンジンにも強い関心を抱いており、1973年にはロータリーエンジンを搭載したGSビロトールを発売しました。2ローターのロータリーエンジンとセミオートマチックトランスミッションを組み合わせ、GSでは唯一の水冷エンジン搭載モデルとなりました。しかし、オイルショックやエンジンの耐久性不足などの問題により、販売台数はわずか847台に終わり、短期間で生産中止となりました。

GSA：ハッチバックモデル

1979年に登場したGSAは、GSをベースにハッチバックボディを採用したモデルです。バンパーやドアミラーが樹脂製になったり、フロントグリルやテールランプなどが変更されるなど、GSとは異なるデザインとなりました。内装も大幅に変更され、メーターパネルやダッシュボード、シートなどが刷新されました。エンジンは1,299ccに拡大されました。

日本におけるGS/GSA

GSは1972年から日本市場に導入され、10年以上販売が続けられました。当初は1,015ccモデルのみでしたが、その後1,220ccモデルや1,299ccモデルも導入されました。排ガス規制への対応や、クーラーの取り付けが困難だったことなど、課題もありましたが、独特のスタイリングやハイドロニューマチックサスペンション、低価格などが評価され、人気を博しました。最終的には約6,000台が日本市場で販売されたとされています。

まとめ

シトロエンGS/GSAは、空冷エンジンとハイドロニューマチックサスペンションという独特の組み合わせ、そして優れた空力性能とスタイリングを備えた、画期的な小型車でした。多くの課題を抱えながらも、16年間にわたり247万台以上が生産され、世界中で愛された名車と言えるでしょう。その革新的な技術とデザインは、後のシトロエン車にも大きな影響を与え、自動車史に名を残すモデルとなりました。

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