シブリー・アールキスト鳥類分類

シブリー・アールキスト鳥類分類（Sibley-Ahlquist classification of birds）は、1990年前後にアメリカの鳥類学者であるチャールズ・シブリー、ジョン・アールクィスト、バート・L・モンローらによって提唱された鳥類の分類体系です。

背景と革新性

従来の鳥類の分類は、主に骨格や羽の色、体の構造といった形態的な特徴に基づいて行われていました。この形態分類は長年普及していましたが、分類基準が曖昧になりがちで、研究者によって解釈が分かれるといった恣意性の問題や、鳥類の進化の歴史、特に異なるグループが単一の共通祖先から派生したものであるか（単系統性）や、グループ間の正確な類縁関係が不明瞭であるという課題を抱えていました。また、鳥類の系統関係を示す化石記録が豊富ではないことも、系統分類を困難にしていました。

このような状況に対し、シブリー・アールキスト分類は、それまで鳥類分類に大規模に用いられたことのなかった分子生物学的な手法であるDNA-DNA分子交雑法を全面的に採用した点で画期的な取り組みでした。これは、鳥類全体を同一の客観的な分子データに基づいて包括的に分類しようとする、当時としては唯一無二の試みでした。この新しいアプローチは、その後の鳥類系統分類学の研究を大いに刺激し、活性化させるマイルストーンとなりました。

問題点と受容の状況

しかし、この分類体系は発表後、様々な問題点が指摘され、最終的に鳥類学者や学会に広く受け入れられることはありませんでした。主な問題点としては、使用されたDNA-DNA分子交雑法自体が、現在のDNAシーケンス解析のように特定の遺伝子座の詳細な情報を得られるものではなく、遺伝子間の全体的な距離を測るにすぎなかったこと、また系統樹の再構築に用いられた手法（UPGMA）が当時の計算機技術の制約もあり原始的であり、系統構築においてバイアスを生じやすかったことが挙げられます。

これらの手法的な限界から、シブリーらの提示した系統樹には、実際の進化系統から見て間違いが多く含まれていました。特に、本来は別の系統であるグループをまとめてしまったり、近縁なグループを遠縁と判断したりするケースが見られました。例えば、彼らが提案した「コウノトリ目」は、ペンギン、タカ、チドリ、ペリカンなど多様な水鳥を含む巨大なグループでしたが、実際には単系統ではありませんでした。他にも、本来姉妹群であるキツツキ目とキリハシ目を別の小綱に分けたり、ツメバケイ科を誤った系統に置いたりするなど、具体的な分類群において多くの不正確さが指摘されました。

また、この分類法は、後のミトコンドリアDNAや核DNAの塩基配列に基づくより洗練された分子解析の結果や、一部の形態学的研究の結果とも一致しない点が多々見つかりました。このため、シブリー・アールキスト分類は、鳥類分類における「検証されるべき一つの仮説」として扱われるにとどまり、伝統的な形態分類に取って代わるには至りませんでした。

分類の特徴と遺産

高位分類（目より上の階級）においては、従来の形態分類と劇的に異なる多くの新しいグループ構成が提案されましたが、前述のようにその多くは単系統ではないと後に判明しました。ただし、彼らがキジ類やカモ類をまとめた「キジカモ小綱」は単系統であり、現在でも広く受け入れられています。

また、シブリーらは分類階級の割り当てに、遺伝的距離から算出されるΔT50Hという客観的な指標を用いました。これは、同じ階級のグループがおおよそ同じ時期に分岐したと仮定するもので、分類の客観性を高める試みでした。しかし、これにより従来のいくつもの「目」が下位の「科」の階級に格下げされるなど、従来の分類体系との大きな乖離が生じ、連続性のない階級構造となったことも批判の一つとなりました。

階級名に関しては、上科より上の階級のタクソン名の語尾を統一するという提案を行い、これは正式な命名規約ではありませんが、その後の鳥類分類において広く慣習として用いられるようになりました。

シブリー・アールキスト分類そのものは主流にはなりませんでしたが、鳥類分類学に分子生物学的手法を大規模に導入する道を切り開き、その後の研究の方向性に大きな影響を与えたという歴史的意義は大きいと言えます。2000年代後半からは、より精緻な遺伝子シーケンス技術と高度な計算手法を用いた鳥類全体の分子系統解析が進み、現在ではシブリーらのものとは異なる、より確からしいとされる新しい分子系統に基づく分類体系が受け入れられつつあります。ただし、これらの新しい分類体系は、シブリーらのように鳥類全体に機械的に同一基準を適用するのではなく、伝統的な分類も考慮しつつ、分子データに基づいて個別の修正を加えていく形で構築されています。

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