シムカ・1307/1308

シムカ1307/1308/1510：ヨーロッパを駆け抜けた小型車の軌跡

シムカ1307/1308は、1975年7月にクライスラー・フランス（後のタルボ）によって発表された小型乗用車です。1963年から販売されていたシムカ1301/1501の後継車種として開発され、1985年まで製造されました。1,294ccモデルと1,442ccモデルが存在し、それぞれフランスの課税馬力に基づき1307、1308と命名されました。上級グレードにはヘッドライトウォッシャーやパワーウインドウを装備した1308GTもラインナップされていました。

そのデザインは、5ドアハッチバックで6つの窓を持つスタイル。1973年デビューのフォルクスワーゲン・パサートを彷彿とさせますが、大柄なヘッドライトを除けば、フランス車らしい個性は控えめでした。しかし、1970年代半ばの欧州小型車のトレンドを的確に捉えたパッケージングと、厚みのあるシートによるフランス車らしい室内空間が、インターナショナルな雰囲気も併せ持つ独特の魅力を生み出していました。機構面では、1967年デビューのシムカ1100以来の横置きエンジン・前輪駆動方式を採用していました。

シムカ1307/1308は、当時不振だったクライスラー・フランスとクライスラーUK（旧ルーツ・グループ）の復活を賭けた、クライスラー初の欧州戦略車として大きな注目を集めました。発売後1年間で25万台以上を販売する成功を収め、1976年にはヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞しています。1976年10月からはイギリスのクライスラーUK工場でも生産を開始。イギリス市場では「クライスラー・アルパイン」として販売され、1,294ccモデルがGL、1,442ccモデルがS、上級グレードがGLSという名称で展開されました。1979年にはフランス仕様のみ、1,592ccエンジンとATを組み合わせた1309SXが追加されました。

しかし、シムカ1307/1308と、1978年に登場した兄弟車オリゾン（ホライズン）をもってしても、経営危機にあったクライスラーを立て直すには至りませんでした。ヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤー受賞車でありながら、目立たない存在となっていったのです。それでも、クライスラー時代の1307/1308/アルパインの総生産台数は778,240台と、フランスとイギリスで好調な販売を記録しました。

1978年、クライスラー・フランスとクライスラーUKがPSAグループ傘下に入ると、PSAは両社のブランドを「タルボ」（イギリスでは「タルボット」）に統一しました。その第一弾として、1979年10月、シムカ1307/1308/1309は「タルボ・1510」と改名されました。改名と同時にマイナーチェンジを実施し、スラントノーズを採用、全長も延長されました。イギリス仕様は「タルボット・アルパイン」の名称を維持しました。

タルボ・1510には、1,294cc/67psのLS、1,442cc/84psのGL・GLS、1,592cc/89psのSXが設定され、MTとATが用意されました。1980年には、1510をベースに後部を改造した4ドア3ボックスセダン「タルボ・ソラーラ」が登場しました。1981年9月以降は、LSも1,442ccエンジンを搭載し、GL/GLSは1,592ccエンジンに変更されました。GLSとSXにはシトロエンCXと同じ5速トランスミッションが採用され、これはPSAグループ内の部品共通化の最初の例となりました。

しかし、オリゾンと車格が近かったことも影響し、1510の販売は1307/1308時代ほどの勢いはなく、販売の中心はソラーラに移りました。フランスでの生産は1982年に終了しましたが、イギリスとスペインでは生産が継続されました。イギリス仕様は1982年10月に「アルパイン・シリーズ2」となり、ギアボックスがプジョー305と共通化されるなど変更が加えられました。1984年10月には限定車「ミンクス」「レイピア」のみとなり、さらに305のステアリングホイールやスイッチ類が採用されましたが、生産は1985年夏に終了しました。

シムカ/タルボ車は、車体の腐食が早いとされており、現存する個体は多くないとされています。なお、ロシアのモスクヴィッチ・アレコは1510と外観が酷似していますが、エンジンは縦置きで、PSAから製造権を取得したものではないとされています。シムカ1307/1308/1510は、その歴史とデザイン、そして販売状況など、様々な側面から見て、興味深いモデルと言えるでしょう。

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