シャイム・スーティン

シャイム・スーティン：魂の叫びを描いた画家

シャイム・スーティン（Chaïm Soutine）は、1893年にロシア帝国（現在のベラルーシ）で生まれ、フランスで活躍した画家です。エコール・ド・パリの重要な一員として知られ、その独特な画風は多くの人々を魅了してきました。彼の作品は、激しい感情、歪んだ形態、そして独特の色使いが特徴で、見る者に強烈な印象を与えます。

生い立ちとパリへの旅立ち

スーティンは、貧しいユダヤ人の家庭に11人兄弟の10番目として生まれました。幼い頃から体が弱く、家業の手伝いもできなかったため、兄弟たちから疎まれる存在でした。しかし、絵画への情熱は幼い頃から強く、貧困と宗教的な理由から絵を描くことを許されない環境の中、故郷を離れ、リトアニアの美術学校で学びました。

1913年、スーティンは友人と共にパリへ移住し、エコール・デ・ボザールで学び始めます。そこで、彼はフェルナン・コルモンやエミール・ベルナールに師事し、集合アトリエ「ラ・リューシュ」の仲間たちと交流を深めます。このアトリエでは、マルク・シャガールやフェルナン・レジェなど、後の巨匠たちが集まっており、スーティンは特にアメデオ・モディリアーニと親交を深めました。モディリアーニは、生活に困窮していたスーティンの才能を認め、画商に無理やり絵を買わせるなど、彼の面倒をよく見ていました。

苦難の時代と転機

パリでの生活は決して楽ではありませんでした。スーティンの作品はなかなか売れず、経済的に困窮した日々が続きました。しかし、モディリアーニの死後、彼の作風に変化が現れ、南仏のセレで描かれた風景画は、構図やタッチが激しく歪んでおり、精神的な不安を反映しているとされています。

1923年、アメリカのコレクター、アルバート・C・バーンズがスーティンの作品に感銘を受け、彼の作品をまとめて購入しました。この出来事がきっかけとなり、スーティンの評価は一気に高まり、パリで最初の個展も開かれるなど、彼は一躍「巨匠」となりました。その後、生活は大きく改善し、豪邸に住み、運転手付きの生活を送るまでになりました。

晩年と死

しかし、スーティンの晩年は再び貧困に陥り、創作活動もほとんど行わなくなります。第二次世界大戦が勃発すると、ユダヤ人であった彼はゲシュタポから逃れるためにフランス中を転々としました。過酷な生活の中で持病が悪化し、1943年に胃潰瘍の手術を受けた直後に亡くなりました。

スーティンの作風と評価

スーティンの作品は、風景、人物、静物など多岐にわたりますが、どの作品も激しく歪んだ形態、荒々しいタッチ、そして独特な色使いが特徴です。特に人物画では、コックやボーイなど、名もなき使用人たちを好んで描きました。また、静物画では動物の死骸をモチーフにするなど、独特の視点を持っていました。

彼の作品は、貧困や差別の中で生きたスーティンの苦悩や焦燥感、そして魂の叫びが込められていると評されています。批評家の中には、彼の作品を「屈折した思いを対象の中に反映させていく叫びの芸術」と評する人もいます。スーティンは、経済的に豊かになった後も、常にアウトサイダーであり続け、不器用ながらも信念を曲げない、純粋な画家として評価されています。

エピソード

スーティンは、有名画家となった後、自身の作品をコレクターや美術館から取り戻し、その場で破り捨ててしまうという奇妙な行動をすることがありました。また、晩年には再び極貧に陥り、靴を一足しか持っていないというエピソードも残っています。彼の人生は、エコール・ド・パリの「呪われた画家たち」を象徴する存在として、文学作品にも描かれています。

代表作

カーテンの側の自画像（1917年）
ケーキ職人（1919年）
肉屋（1919-1920年）
奉公人（1922年）
ドアボーイ（1925年）
マドレーヌ・カステンの肖像（1928年、メトロポリタン美術館）
* 丸太の上の二人の子供（1942-1943年)

スーティンの作品は、現在でも世界中の美術館で展示され、多くの人々に感動を与え続けています。彼の激しい感情と独特の表現は、後世の画家たちにも大きな影響を与え、美術史にその名を刻んでいます。

もう一度検索