ラ・リューシュ

ラ・リューシュ：芸術家たちの「蜂の巣」

パリ15区に位置するラ・リューシュ（La Ruche）は、フランス語で「蜂の巣」を意味する集合アトリエ兼住宅です。20世紀初頭、モンパルナス地区の南側に位置し、エコール・ド・パリの画家や彫刻家たちが集まり、共同生活を送りながら芸術活動に励んだ場所として知られています。アール・ヌーヴォー様式の3階建てロタンダ（円形建築物）が特徴で、当初は約140室を備え、中央の大広間では作品展示会「ラ・リューシュ展」が開催されていました。また、モデルを雇って画家たちがデッサンをする「アカデミー」と呼ばれる部屋や、約300席の「リューシュ・デ・ザール」劇場も存在しました。

ラ・リューシュを拠点とした芸術家たち

ラ・リューシュに部屋を借りていた芸術家たちの多くは、貧しい外国人でした。特に1910年代には、ソ連や中東欧での弾圧を逃れてきた若いユダヤ人が多く、「貧乏人のヴィラ・メディチ」とも呼ばれていました。ラ・リューシュの公式ウェブサイトによると、1900年代から1940年代にかけてラ・リューシュに部屋を借りていた主な芸術家は以下の通りです。

アルフレッド・ブーシェ (フランス人彫刻家、ラ・リューシュの創設者)
アレクサンダー・アーキペンコ (ウクライナ出身の彫刻家)
マルク・シャガール (ベラルーシ出身のユダヤ人画家)
ジャック・シャピロ (ラトビア出身の画家)
ロベール・クチュリエ (フランス出身の彫刻家)
ジョセフ・シサキ (ハンガリー出身の彫刻家)
イサック・ドブランスキー (ウクライナ出身の画家)
ジョルジュ・ドリニャック (フランス出身の画家)
アンリ・エプスタイン (ポーランド出身の画家、アウシュビッツ収容所で死去)
レオン・インデンバウム (ベラルーシ出身のユダヤ人彫刻家)
ミシェル・キコイーヌ (ベラルーシ出身のユダヤ人画家)
モイズ・キスリング (ポーランド出身のユダヤ系画家)
ピンクス・クレメーニュ (ベラルーシ出身のユダヤ系画家)
アンリ・ローランス (フランス出身の彫刻家・画家)
フェルナン・レジェ (フランス出身のキュビスム画家)
ジャック・リプシッツ (リトアニア出身の彫刻家)
ルイ・ネイヨ (フランス出身の画家)
シャイム・スーティン (ベラルーシ出身のユダヤ系画家)
オシップ・ザッキン (ベラルーシ出身のユダヤ系彫刻家・画家)
アラン・キュニー (フランス出身の俳優)
ブレーズ・サンドラール (スイス出身の詩人・小説家)

その他にも、マリー・ローランサン (フランスの画家)、ガブリエル・ドゥリュック(フランスの画家)、アレグザンドル・アルトマン(ウクライナ出身の画家)、アメデオ・モディリアーニ (イタリア出身の画家)、藤田嗣治 (日本人画家)、コンスタンティン・ブランクーシ (ルーマニア出身の彫刻家)、ギヨーム・アポリネール (イタリア出身のポーランド人詩人)、マックス・ジャコブ (フランスの詩人)、アンドレ・サルモン(フランスの詩人)など、多くの芸術家がラ・リューシュを拠点として活動しました。ただし、当時の状況は混沌としており、実際に部屋を借りていたのか、居候をしていたのか、活動拠点にしていたのかの区別は曖昧でした。

ラ・リューシュの歴史

ラ・リューシュは、もともと1900年のパリ万国博覧会のためにギュスターヴ・エッフェルがボルドー・ワイン館として設計したものでした。1902年に彫刻家アルフレッド・ブーシェが買い取り、アトリエを増築して、ヨーロッパ各国からやってきた貧しい芸術家たちに提供しました。これにより、約140室のアトリエ兼住宅、作品展示室、デッサン室、劇場などが整備されました。1910年代には、東欧系のユダヤ人芸術家たちがフランスに移住し、ここを拠点としました。彼らはフランス語が堪能でない者も多く、家賃の低い集合アトリエで助け合いながら、ゆるやかなコミュニティを形成していました。

第一次世界大戦後、ラ・リューシュの創設者であるアルフレッド・ブーシェの作品は売れなくなり、次第に忘れ去られました。第二次世界大戦が勃発すると、ユダヤ人芸術家たちは収容所に送られたり、疎開したりして、ラ・リューシュを去ることになりました。戦時中、ラ・リューシュはレジスタンス運動の拠点としても利用されました。

戦後、ラ・リューシュはかなり破壊されましたが、再び若い芸術家たちが集まり、活動を続けました。しかし、その後、ラ・リューシュは荒廃し、売却される危機に瀕しました。これに対し、ラ・リューシュの保護を求める委員会が結成され、シャガールを委員長として、かつてここに住んでいた芸術家の作品を売却して買い取ろうとしました。結局、資金が足りず、地球物理学者ルネ・セドゥーとジュヌヴィエーヴ・セドゥー夫妻の寄付により、買い取りと修復が行われることになりました。

1972年には、ラ・リューシュのファサードと丸屋根が歴史的記念物に指定されました。1985年には、ジュヌヴィエーヴ・セドゥーの寄付によりラ・リューシュ＝セドゥー財団が設立され、現在も同財団によって運営されています。現在、ラ・リューシュでは世界各国から集まった若いアーティストが活動し、現代アートを中心に様々な展覧会が開催されています。

日本における紹介

日本では、2016年に名古屋松坂屋美術館で展覧会「愛と青春のアトリエ 洗濯船と蜂の巣」が開催され、ラ・リューシュと「洗濯船」という二つの集合アトリエで活動した芸術家たちの作品や、当時の様子が紹介されました。

関連情報

洗濯船
モンパルナス
公式ウェブサイト

ラ・リューシュは、芸術の歴史において重要な役割を果たした場所であり、現在もその創造的な精神が受け継がれています。

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