シャコンヌ (ニールセン)

シャコンヌ 作品32（カール・ニールセン作曲）

『シャコンヌ』作品32、FS.79は、デンマークの作曲家カール・ニールセン（Carl Nielsen, 1865-1931）によって1916年に作曲されたピアノ独奏曲です。この年は、彼の代表的なオーケストラ作品である交響曲第4番『不滅』作品29と同年に生み出されました。この『シャコンヌ』は、同時期に発表された『主題と変奏』作品40と共に、ニールセンのピアノ作品を代表する重要な位置を占めています。

音楽的特徴

楽曲全体の傾向としては、J.S.バッハのシャコンヌを彷彿とさせる構造が見られますが、同時にベートーヴェンやブラームスといったドイツロマン派の巨匠たちの書法からも影響を受けていることがうかがえます。その一方で、異なる調が同時に響き合う『複調』など、作曲当時の感覚からすれば極めて斬新な技法も積極的に導入されており、ニールセン独自の個性が強く打ち出されています。伝統的な枠組みの中で革新的な表現を試みる、ニールセンらしい作風が顕著に表れた作品と言えるでしょう。

楽曲構成

本作は「シャコンヌ」の形式に従い、一つの主題とそれに続く20の変奏から構成されています。シャコンヌは通常、一定の低音主題または和声進行に基づき、多くの場合3/4拍子で8小節を基本単位として展開される舞曲形式です。

曲はまず、低音域で静かに主題が提示されることから始まります。第1変奏からは高音部にも旋律が現れ始め、楽曲は次第に活気を帯びていきます。基本的な変奏はシャコンヌ形式の規則である8小節の長さに従っていますが、いくつかの例外も存在します。

特に注目されるのは第4変奏で、ここは例外的に9小節という変則的な長さを持っています。また、速度指定が「un poco piu mosso（少し速く）」と記された第16変奏と第17変奏では、譜面が3段譜で記されており、高音部と低音部との間に複調的な響きが明確に現れ、複雑な音響空間を作り出しています。この複調は、続く第18変奏で速度が「a tempo ma pesante（元の速さで、しかし重く）」に戻ると共に解決され、安定した響きへと回帰します。第19変奏を経て、最も大規模で演奏時間も長い第20変奏に至ります。この最終変奏は、それまでの変奏の基本単位である8小節には収まらない自由な展開を見せ、事実上のコーダとして楽曲全体を力強く締めくくります。

演奏時間

標準的な演奏時間は約11分です。

参考情報

• - 参考楽譜: Masters Music Publications, Inc.より1993年に出版されたM2171などがあります。
• - 関連項目: シャコンヌ（楽曲形式）、ロバート・シンプソン（ニールセン研究者）

この『シャコンヌ』は、ニールセンのピアノ作品の中でも特に演奏頻度が高く、彼の作曲技法の多様性や独創性を理解する上で重要な作品です。伝統的な形式と先進的な手法が見事に融合した、聴きごたえのある楽曲と言えるでしょう。

（総文字数：約1200字）

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