ロバート・シンプソン

ロバート・シンプソン

ロバート・シンプソン（Robert Wilfred Levick Simpson, 1921年3月2日 - 1997年11月21日）は、イギリスを代表する作曲家であり、優れた音楽学者でもありました。

生涯

1921年、ロイヤル・レミントン・スパにて誕生。父はスコットランド系、母はオランダ系の血を引いており、父は救世軍の士官でした。シンプソンが初めて手にした楽器は、父の活動を通じて触れた英国式ブラスバンドのコルネットでした。両親は彼に医療の道を望んでいましたが、音楽への強い情熱から薬学の道を断念し、音楽の探求を決意します。1942年から1946年にかけてハーバート・ハウエルズに師事。ハウエルズの勧めでダラム大学に進み、音楽学の学士号を取得しました。さらに、1951年には自作の交響曲第1番を提出して博士号を受け、この頃から一般向けの講演や執筆活動にも力を入れるようになります。

1951年、シンプソンはBBC音楽部門に加わりました。デリック・クックやハンス・ケラーといった同僚たちと共に、音楽番組の制作や編成に深く関与します。プロデューサーとしての手腕は高く評価され、特に指揮者のエイドリアン・ボールトとBBC交響楽団との間には緊密な協力関係を築きました。しかし、キャリアの後半になると、BBC上層部の運営方針との衝突が頻繁に生じます。方針への根強い不満から、1980年にBBCを辞職。それまで余暇を利用して行っていた作曲活動に専念する道を選びました。1986年にはアイルランドへ移り住み、1997年にケリー県のトラリーでその生涯を終えました。

シンプソンは信念に基づいた平和主義者、人道主義者としても知られています。第二次世界大戦中のロンドン空襲時に空防隊に参加した経験が、彼の平和への思いを一層強固にしました。この信条は音楽活動にも影響を与え、「核兵器に反対する音楽家たち（Musicians against Nuclear Arms）」への支援を行い、その後の創作においては肯定的で親しみやすい表現へと向かう契機となりました。また、彼は音楽以外の分野では天文学に強い関心を示し、その学識が認められて王立天文学会のフェローに選ばれています。指揮者のヤッシャ・ホーレンシュタインは生涯の友であり、シンプソンは自身の著作『ブルックナーのエッセンス』を彼に献呈しています。ホーレンシュタインも友情に応えるように、たびたびシンプソンの作品を演奏会で取り上げました。

作風

ロバート・シンプソンの音楽は、アントン・ブルックナーやカール・ニールセンからの強い影響を色濃く受けており、「20世紀のブルックナー」と称されることもありました。戦後の音楽界が前衛的な潮流に傾くなかで、彼の保守的な作風は一時的に目立たない存在となります。しかし、彼は近代音楽の重要な伝統である交響曲の創作を途絶えることなく続けました。没後、特に英語圏以外の地域では彼の知名度は必ずしも高くない現状がありますが、1980年に設立されたロバート・シンプソン協会が、交響曲全集の録音支援をはじめとする精力的な活動を通じて、彼の作品の普及と再評価に取り組んでいます。

シンプソンの作品群の中心をなすのは、生涯を通じて書き続けられた11曲の交響曲と15曲（他に未完が1曲）の弦楽四重奏曲です。自らを「獰猛な反ペシミスト」と形容する彼の音楽は、アルノルト・シェーンベルクの音列作品を聴いて「自分がしたくないことが分かった」と語ったように、無調とは明確な距離を置いています。その一方で、従来の機能調性からも離れ、独自の調性感覚や協和音の扱いを、エネルギー溢れる力強いリズムと結びつけています。古典的な形式をそのまま踏襲することは少なかったものの、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンやジャン・シベリウスの音楽を意識し、大規模な構造や展開の可能性を追求する姿勢が見られます。

音楽学者としての活動

シンプソンは、作曲家としてだけでなく、音楽学者としても早期から高い評価を得ていました。彼の研究対象は、自身の音楽に深い影響を与えた作曲家たち、すなわちヨハン・ゼバスティアン・バッハ、ベートーヴェンをはじめとするウィーン古典派、そしてブルックナー、ニールセン、シベリウスといった面々でした。特にブルックナーとニールセンに関しては、英語圏における彼らの作品の理解と普及に大きく貢献し、その功績が認められて1956年にはデンマーク政府よりカール・ニールセン金メダルを、1962年にはアメリカブルックナー協会メダルを受賞しています。また、一般にはあまり知られていない、あるいは正当な評価を受けていない作品を積極的に紹介することにも力を注ぎました。1947年に設立した「Exploratory Concerts Society」では、そうした隠れた名作を重点的に演奏会で取り上げました。さらに、ラジオシリーズ「The Innocent Ear」では、作曲家の名前を伏せて作品を放送するという実験的な試みを行い、リスナーに先入観のない純粋な聴取を促しました。

主要作品・著作（一部）

シンプソンの作品は多岐にわたりますが、特に重要なのは以下の作品群です。

交響曲：
交響曲第1番 (1951)
交響曲第3番 (1962)
交響曲第9番 (1986)
交響曲第11番 (1990)

弦楽四重奏曲：
弦楽四重奏曲第1番 (1951-52)
弦楽四重奏曲第9番 (1982)
弦楽四重奏曲第10番「平和のために」 (1983)
弦楽四重奏曲第15番 (1991)

その他の代表作：
ピアノ協奏曲 (1967)
ニールセンの主題による変奏曲 (管弦楽) (1983)
ブラスバンドのための交響的習作「エネルギー」 (1971)

主要著作：
Carl Nielsen: Symphonist (1952)
The Essence of Bruckner: An Essay Towards the Understanding of his Music (1966)
Beethoven Symphonies (1970)
The Symphony* (Two Volumes), 編著 (1975)

ロバート・シンプソンは、20世紀後半において、伝統的な形式と独自の語法を融合させながら、精力的に創作と研究を行った稀有な存在と言えるでしょう。彼の音楽は、困難な時代にあっても希望や活力を見出そうとする強い意志に貫かれています。

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