シャニダール洞窟

シャニダール洞窟：ネアンデルタール人の足跡を辿る

シャニダール洞窟は、イラク北部のザグロス山脈中に位置する考古遺跡であり、ネアンデルタール人の人骨が発見されたことで世界的に知られています。この洞窟からは、3万5000年前から6万5000年前にかけてのネアンデルタール人、計10体の骨格が発見されており、彼らの生活様式や文化、そして埋葬に関する貴重な情報を提供しています。

発見されたネアンデルタール人

洞窟内で発見されたネアンデルタール人のうち、特に有名なのは「シャニダール1号」と「シャニダール4号」です。

シャニダール1号：高齢の男性で、生涯にわたって複数の傷を負いながらも、集団の助けを借りて生き延びたと考えられています。彼の骨格には、顔面の骨折や右腕の欠損など、多くの外傷の痕跡が見られます。これらの傷跡は、ネアンデルタール人が病人や高齢者を介護していた可能性を示唆しています。

シャニダール4号：彼の埋葬地の周囲からは、通常の花粉に加えて花粉の塊が発見されました。花粉の分析から、セイヨウノコギリソウ、ヤグルマギクなどの花が意図的に供えられた可能性が指摘されています。これは、ネアンデルタール人が埋葬の際に何らかの儀式を行っていたことを示唆する証拠として注目されました。ただし近年では、花粉はスナネズミなどの動物によって持ち込まれた可能性も指摘されています。

その他の人骨として、シャニダール2号、シャニダール3号、シャニダール10号が見つかっています。

シャニダール2号：成人男性で、洞窟内で岩が崩落して死亡したと考えられています。埋葬地点の上には石積みの跡があり、焚き火の跡もあったことから、葬儀が行われた可能性が指摘されています。

シャニダール3号：40歳から50歳の成人男性で、左第九肋骨に傷がありました。傷の分析から、ホモ・サピエンスとの間で争いがあった可能性も示唆されています。

* シャニダール10号：2006年に発見された下肢と足の骨です。

ムスティエ文化の石器群

シャニダール洞窟からは、人骨に加えてムスティエ文化の石器も多数発見されています。これらの石器は、尖頭器やサイドスクレイパー、剥片などであり、ネアンデルタール人が狩猟や生活に必要な道具を製作していたことを物語っています。

先土器新石器時代の墓地

シャニダール洞窟には、ネアンデルタール人よりも時代が下る先土器新石器時代A（プロト新石器時代）の墓地もあります。そのうちの1つは1万600年前のもので、35人が埋葬されています。この墓地の存在は、この地域が古代から人々の生活の場であったことを示しています。

遺跡の重要性

シャニダール洞窟は、ネアンデルタール人の生態や行動、文化を理解するための重要な手がかりを提供してくれる貴重な遺跡です。この洞窟から発見された人骨や石器、花粉などの遺物は、ネアンデルタール人が単なる原始的な人類ではなく、高度な社会性や文化を持っていたことを示唆しています。今後の研究によって、さらに多くの発見がもたらされることが期待されています。

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