シャルル・ムートン

シャルル・ムートン（Charles Mouton）は、およそ1626年に生まれ、1710年頃に没したフランスのリュート奏者、そして作曲家です。彼の生涯や活動に関する確かな情報は、今日では残念ながら多くは伝わっていません。しかし、現存する資料や作品集から、当時の重要な音楽家の一人であったことがうかがえます。

彼の出生地はおそらくルーアンであると推測されており、また当時のフランスにおける著名なリュートのヴィルトゥオーゾであったドニ・ゴーティエ（Denis Gaultier）に師事したと考えられています。このような師弟関係は、彼の音楽スタイルや演奏技術の形成に大きな影響を与えたことでしょう。

キャリアの初期段階において、ムートンはフランス国外、特にイタリアのトリノで活動していた時期がありました。トリノでは、サヴォイア家の宮廷に仕え、音楽家としての職を得ていたようです。当時のヨーロッパの宮廷では、リュートは非常に人気の高い楽器であり、多くの音楽家が活躍の場を求めて様々な国を訪れていました。

その後、1660年代にはフランスに戻り、パリを拠点としました。この時期のパリは、ルイ14世の治世下で芸術文化が最も栄えた時代であり、リュート音楽も隆盛を極めていました。ムートンは、パリの多くの貴族たちにリュートを教授することで生計を立てていたようです。彼の卓越した演奏技術や指導法は、貴族たちの間で評判を呼んだことでしょう。

生涯において、ムートンは活動拠点を何度か移しました。1676年には再びトリノに戻ったと記録されています。しかし、そのわずか2年後の1678年には、再びパリへと舞い戻りました。このような度重なる移動の理由は定かではありませんが、当時の政治情勢や自身のキャリアにおける機会などが影響していたのかもしれません。

作曲家としての彼の主要な業績は、リュートのための作品集の出版です。およそ1680年頃に、彼は自身のリュート曲を収めた2冊の作品集を刊行しました。これらの曲集は、当時のリュート音楽の様式や演奏習慣を知る上で非常に貴重な資料となっています。しかし残念ながら、この2冊のうち、今日まで完全な形で現存しているのは1冊のみです。

さらに興味深いのは、当時の著名な音楽出版者であったエスティエンヌ・ロジェ（Estienne Roger）が1716年にアムステルダムで刊行したカタログに、ムートンが「4冊」のリュート曲集を出版していたと記載されている点です。これは、彼が生涯において実際にはより多くの作品集を世に送り出した可能性を示唆しており、彼の作曲活動の規模が、現在確認されている以上に大きかったことを示唆します。

出版された曲集以外にも、彼のリュート作品は多くの手稿譜の中に散逸して残されています。様々な図書館や個人コレクションに収められた手稿譜を調査した結果、合計で120曲を超えるリュート独奏曲がシャルル・ムートンの作品として確認されています。これらの手稿譜に含まれる作品群は、彼の多様な作曲スタイルや、当時のリュート音楽のレパートリーの広がりを理解する上で重要な手がかりとなります。

まとめとして、シャルル・ムートンはその生涯の多くが謎に包まれている音楽家ですが、当時のフランスとイタリアで活躍した重要なリュート奏者・作曲家でした。限られた情報と現存する作品から、彼が優れた演奏技術と作曲能力を持っていたことがうかがえます。彼の残した120曲以上のリュート作品は、バロック時代のリュート音楽の豊かな遺産の一部として、今日でも研究され演奏されています。

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