シャンパーニュの丘陵、メゾンとカーヴ

シャンパーニュの丘陵、メゾンとカーヴ：世界遺産の輝き

フランス北東部、シャンパーニュ地方。その美しい丘陵地帯は、世界的に有名なシャンパン発祥の地であり、2015年にはユネスコの世界遺産に登録されました。この世界遺産は、ブドウ畑、シャンパン製造業者（メゾン）、そして地下セラー（カーヴ）という、シャンパン生産に関わる文化的景観全体を包括的に評価したものです。

シャンパンの歴史：ローマ時代から現代まで

シャンパーニュにおけるワイン造りは、ローマ帝国時代まで遡ります。ローマ人が採石のために掘り進めた地下の白亜質の洞窟群は、後世、シャンパンの熟成に最適なセラーとして利用されることになります。中世には修道院がワイン造りに携わり、特にオーヴィレール修道院はシャンパンの歴史において重要な役割を担いました。しかし、シャンパンの質的向上に大きく貢献したのは、商人たちの商業活動でした。当時造られていたワインは赤ワインでしたが、発泡性ワインであるシャンパンが登場するのは17世紀後半です。ドン・ペリニヨン修道士がシャンパンの発明者とされることもありますが、実際はそれ以前から発泡性ワインは存在していました。ドン・ペリニヨンの功績は、様々なブドウ品種やワインをブレンドする独自の製法の確立にあります。

17世紀末には、シャンパンはイギリスへ輸出され高い評価を獲得。18世紀にはフランス宮廷でも愛飲されるようになり、リュイナール、モエ・エ・シャンドン、ランソンなど、現在も続く名門メゾンが次々と誕生しました。19世紀には、ヴーヴ・クリコやマダム・ポメリーといった女性実業家たちが、シャンパン産業の発展に大きく貢献しました。ヴーヴ・クリコは、シャンパンの品質向上に繋がるルミュアージュ（澱の除去）技術を確立したことで知られています。マダム・ポメリーは、イギリス市場を重視し、辛口シャンパンを開発。それまで主流だった甘口シャンパンに辛口が加わることで、シャンパンの嗜好の幅が広がりました。この時代には、アルフォンス・ミュシャやアンリ・ド・トゥールーズ＝ロートレックといった芸術家のポスターがシャンパンの広告に用いられるようになり、シャンパンはより大衆的な飲み物へと進化しました。

20世紀には、ブドウネアブラムシの被害、世界大戦、世界恐慌といった困難を経験しながらも、シャンパンの消費量は着実に増加。経済発展と大衆化により、シャンパンは広く親しまれる飲み物となっていきました。

世界遺産の構成資産：ブドウ畑、メゾン、カーヴ

世界遺産「シャンパーニュの丘陵、メゾンとカーヴ」は、大きく3つの地域に分類され、それぞれが複数の構成資産で成り立っています。

1. オーヴィレール、アイ、マルイユ＝シュル＝アイの歴史的丘陵地：最古のブドウ栽培地と初期のカーヴ群が含まれます。特にアイは古くから良質なワインの産地として知られ、ランスでの戴冠式に用いられるワインの生産地でもありました。オーヴィレールは、ドン・ペリニヨンと深い繋がりを持つ修道院があります。

2. ランスのサン＝ニケーズの丘：大手シャンパンメゾンのカーヴ群と、地上建築物が含まれます。リュイナール、ポメリー、ヴーヴ・クリコ、シャルル・エドシック、テタンジェといった歴史あるメゾンのカーヴは、古代ローマ時代の石切り場を転用したもので、その規模と歴史的な価値は高く評価されています。

3. エペルネーのシャンパーニュ大通り：数多くのシャンパンメゾンが軒を連ねる街路で、モエ・エ・シャンドン、メルシエ、ペリエ・ジュエ、ポル・ロジェなど、有名なメゾンがここにあります。ブドウネアブラムシ対策の研究施設であるフォール・シャブロルも含まれており、シャンパン生産の歴史と流通過程を物語る重要な場所です。

世界遺産登録の経緯と基準

この世界遺産は、2002年に暫定リストに記載され、2015年に正式登録されました。登録基準は(3)(4)(6)の3つで、伝統的なワイン造りの技術、歴史的なカーヴ群、シャンパンが持つ文化的象徴性などが評価されました。フランスでは、ボルドーやブルゴーニュのワイン産地も世界遺産に登録されていますが、基準(6)が適用されたのはシャンパーニュだけです。

シャンパーニュの世界遺産は、単なるワイン産地ではなく、歴史、文化、そして景観が一体となった、かけがえのない遺産です。この世界遺産を通じて、シャンパンの歴史と文化を深く理解し、その魅力を再発見することができます。

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