シャープビル虐殺事件

シャープビル虐殺事件：アパルトヘイトの影と抵抗の意志

1960年3月21日、南アフリカ連邦トランスバール州シャープビルで、痛ましい虐殺事件が発生しました。この事件は、アパルトヘイト政策下の南アフリカにおける人種差別と抵抗運動の暗い歴史を象徴する出来事であり、世界に衝撃を与えました。

アパルトヘイトとパス法

南アフリカ政府は、アパルトヘイト政策の一環として、1952年に「パス法」を制定しました。この法律は、黒人男性に身分証明書の携帯を義務付けるもので、人々の移動や居住を厳しく制限するものでした。政府はこの法律を女性にも適用範囲を広げ、人種隔離を強化しました。この過酷な法律は、黒人社会に大きな負担と不平等をもたらしました。

抗議と衝突

アフリカ民族会議（ANC）とパン・アフリカニスト会議（PAC）は、パス法に反対し抗議運動を計画しました。しかし、両組織の戦略は対立しました。ANCは3月31日に大規模な抗議行動を計画した一方、PACはより早期の行動を主張し、独自に抗議活動を行うことを決定しました。

3月21日、約5,000～7,000人のPAC支持者たちがシャープビルの警察署前に集まりました。彼らは逮捕覚悟で身分証を持たずに抗議を行いました。警察は群衆に解散を警告しましたが、彼らは応じませんでした。警察は装甲車を配備し、緊張が高まりました。

午後1時15分頃、警察は群衆に向かって発砲を開始しました。この無差別な発砲により、69人が死亡、180人以上が負傷する惨事となりました。パニック状態に陥った群衆は逃げ惑い、現場は騒然となりました。

国際社会の反応と余波

シャープビル虐殺事件は、世界中に衝撃を与えました。南アフリカ国内では、抗議活動や暴動が頻発し、政府は非常事態宣言を発令、18,000人以上を拘留しました。ANCとPACの活動は禁止され、厳しい弾圧が始まりました。

国際社会もこの事件を重く受け止めました。国連安全保障理事会は決議134を可決し、南アフリカ政府を非難しました。この事件は、アパルトヘイト政策に対する国際的な批判を強め、人種差別撤廃に向けた動きを加速させるきっかけとなりました。

現在と歴史的意義

1966年、国連総会は3月21日を「国際人種差別撤廃デー」と制定しました。南アフリカでは、1994年以降、3月21日は「人権の日」として追悼されています。1996年には、ネルソン・マンデラ大統領がシャープビルで新憲法に署名しました。1998年には、真実和解委員会が警察の行動を「人権侵害」と認定しました。

シャープビル虐殺事件は、アパルトヘイトの残酷さと、それに抵抗する人々の勇気を示す象徴的な出来事です。この事件は、人種差別撤廃への国際的な努力を促し、現代社会においても人権と正義の大切さを私たちに問いかけています。

文学への影響

この事件は、南アフリカの文学にも大きな影響を与えました。多くの黒人作家が検閲や投獄を経験する一方、白人作家の中にも政府に協力せず執筆を続ける者が現れました。この事件を題材にした作品も多く、アパルトヘイト下の社会状況や人々の苦悩を描いています。例えば、ナディン・ゴーディマの小説『バーガーの娘』は、この事件を背景に、アパルトヘイトの影と人々の葛藤を描いた作品として知られています。

もう一度検索