シャーリー・チザム

シャーリー・アニタ・チザム（1924年-2005年）は、アメリカ合衆国の歴史に名を刻んだ政治家、教育者、そして作家です。ニューヨーク市ブルックリン区で、バルバドスからの移民である両親のもとに生まれました。幼少期には一時的にバルバドスで過ごした経験を持ち、その厳格な英国式の教育が、後の彼女の学力に大きく貢献したと言われています。

ブルックリン・カレッジで社会学の学士号、コロンビア大学で初等教育学の修士号を取得後、保育園園長や保育コンサルタントとして活躍しました。この間、地元裁判所に著名な黒人弁護士を選出する活動にも中心的に関わっています。

1964年、ニューヨーク州議会議員に当選。そして、1968年の下院選挙で圧勝し、アフリカ系アメリカ人女性として初めて米連邦議会下院議員に選出されました。下院議員時代は、14年間に渡り7期務めました。当初は農業委員会に配属されたものの、都市部選出議員として自身の選挙区に合わないと訴え、退役軍人問題委員会に異動しています。

下院議員として、チザムは保育法案の起草などにも取り組みました。しかし、この法案はニクソン大統領によって拒否権を発動されました。また、院内総務選挙では、黒人議員ではなく、ヘイル・ボッグスを支持し、その見返りとして労働教育委員会のメンバーに任命されています。

1972年、アメリカ合衆国大統領選挙の民主党大統領候補者指名予備選に立候補しました。主要政党で初の黒人女性候補として注目を集め、選挙運動中には暗殺未遂事件に3度も遭うなど、危険を伴う活動でした。ルイジアナ州、ミシシッピ州、ニュージャージー州など12州で選挙戦を行い、民主党全国委員会の大統領候補指名投票では152票を獲得しました。チザムの立候補は、多くの女性や黒人、そして人種差別撤廃を目指す人々に大きな勇気を与えました。支持者の中には、のちに下院議員となるバーバラ・リーも含まれていました。

大統領選出馬の理由について、チザムは「勝つ見込みがなくても、純然たる意志の力を見せ、現状に決して泣き寝入りしないことをはっきりと示すため」だったと語っています。

政治的ライバルであったジョージ・ウォレスが銃撃された際には、見舞いに行くという行動に出ました。人種差別の問題においては、黒人コミュニティと白人コミュニティの架け橋となるべく努力し、白人政治家との協調関係を築こうとしていた姿勢は、時に誤解を生むこともありました。

下院議員在職中は、スラム街住人の機会向上、徴兵制度反対、教育や保健サービスの充実、軍事費削減などを訴えました。また、事務所のスタッフは全員女性で、半数が黒人という構成でした。自身もニューヨーク州議会時代に激しい差別を受けていたことを語っています。国家安全保障や外交面では、マッカラン法の廃止、ベトナム戦争への介入反対、兵器開発拡大反対、ハイチ難民の待遇改善などを主張しました。

1977年には下院民主党の幹部職に就任し、1981年まで務めました。また、連邦議会・黒人議員幹部会や下院女性議員幹部会の創立メンバーの一人でもあります。

1982年、下院議員を引退。引退後は教育分野で活動を続け、マウント・ホリヨーク大学やスペルマン大学などで教鞭を執りました。また、「性と生殖にかんする自由を求めるアフリカ系アメリカ人女性たち」という組織を設立するなど、社会活動に積極的に取り組んでいました。クリントン大統領から在ジャマイカ大使への指名をされたものの、健康状態の悪化により辞退しています。

2005年、フロリダ州オーモンド・ビーチで死去。生前、「後輩たちには『シャーリー・チザムにはガッツがあった』と言ってほしい」と語っていました。

2005年には、彼女の大統領選挙挑戦の足跡を記録したドキュメンタリー番組が放送され、ピーボディー賞を受賞するなど、その功績は後世に語り継がれています。彼女の自伝『Unbought and Unbossed』は、彼女の生き様を伝える重要な資料となっています。また、スミス大学から法学の名誉博士号を授与され、「全米女性名誉の殿堂」にも殿堂入りしています。

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