シュシー地区

シュシー地区の概要

シュシー地区は、かつてアルツァフ共和国（事実上の独立状態にあったナゴルノ・カラバフ共和国）の行政区画でした。しかし、2020年のナゴルノ・カラバフ紛争を経て、現在はアゼルバイジャンの実効支配下にあります。アゼルバイジャン語では「シュシャ」と呼ばれ、ほぼ同じ範囲に同名の行政区画が存在します。中心都市はシュシー（シュシャ）で、アルツァフの首都ステパナケルトから南に約13.8kmの位置にあります。2020年の紛争で、アゼルバイジャン軍に地区東部を占領され、2023年の攻撃後は全域がアゼルバイジャンの支配下となりました。紛争前の面積は382平方キロメートルで、アルツァフの7地区の中で最も小さく、人口は2005年の国勢調査で5,189人と、2番目に少ない地区でした。

歴史的背景

シュシー地区は、1930年8月8日にアゼルバイジャン・ソビエト社会主義共和国内のナゴルノ・カラバフ自治州に設置されました。1963年から1965年の間は、ステパナケルト地区に統合されましたが、その後復活しました。1979年の調査では、人口は約1.6万人で、そのほとんどがアゼルバイジャン人でした。

1991年、ナゴルノ・カラバフ自治州は「ナゴルノ・カラバフ共和国（アルツァフ共和国）」として独立を宣言し、アゼルバイジャンとの間で紛争が勃発しました（ナゴルノ・カラバフ戦争）。シュシーは、ステパナケルトから約14kmという距離から、アゼルバイジャンの前線基地として利用され、ステパナケルトへの砲撃が行われました。1992年5月8日、アルツァフ軍とアルメニア軍はシュシーへの総攻撃を開始し、翌日にはシュシーを制圧しました（シュシャ占領）。このシュシーの喪失はアゼルバイジャンにとって大きな痛手となり、アルメニア人勢力の優勢につながりました。その後、シュシー地区は隣接する地域を編入し、面積を拡大しました。シュシーの制圧により、地区内のアゼルバイジャン人は退去し、代わりにアルメニア人が移住してきました。

2020年9月27日から始まったアゼルバイジャンとの紛争では、アゼルバイジャン軍が南部に侵攻し、10月29日にはシュシーから5kmの地点まで迫りました。激しい戦闘の末、11月8日にアゼルバイジャン軍がシュシーを占領し、シュシーを失ったアルツァフは停戦に応じました。11月9日の停戦協定により、アゼルバイジャンが占領した地域が正式にアゼルバイジャンに返還され、シュシー地区は中心都市シュシーを含む多くの地域を失いました。現在、地区は名目上存続していますが、全域がアゼルバイジャンの実効支配下にあります。

民族構成の変遷

ナゴルノ・カラバフ地方は元々アルメニア人が多数を占めていましたが、シュシー地区は自治州の中で唯一アゼルバイジャン人が過半数を占めていました。その背景には、1920年にシュシーで発生したアルメニア人虐殺事件（シュシャ虐殺）があります。この事件以前には1万5千人（1886年）いたアルメニア人住民は殺害されるか、この地を去りました。また、1905年にはアルメニア人によるアゼルバイジャン人（タタール）虐殺事件（アルメニア・タタール虐殺）が発生しており、アゼルバイジャン政府はシュシー事件後もアゼルバイジャン人がアルメニア人から迫害を受けたと主張しています。1992年にはアゼルバイジャン人住民が、2020年にはアルメニア人住民がそれぞれ退去し、住民構成が大きく変動しました。

主な都市

以下にシュシー地区の主な都市をアルメニア語とアゼルバイジャン語で併記します。

Mets Shen / Boyuk Galadarasi
Karintak / Dashalty - 2020年にアゼルバイジャンが奪還
Hin Shen / Kichik Galadarasi
Kohnakend - 2020年にアゼルバイジャンが奪還
Lisagor / Turshsu
シュシー / シュシャ (Shushi / Shusha) - 中心都市、2020年にアゼルバイジャンが奪還
* Yeghtsahogh / Sarybaba


シュシー地区は、その歴史的な経緯と民族構成の複雑さから、長年にわたり紛争の焦点となってきました。2020年の紛争以降、その支配は大きく変化しており、今後の動向が注目されます。

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