ステパナケルト

ハンケンディ（ステパナケルト）の歴史と現状

ハンケンディ（アゼルバイジャン語: Xankəndi）、またはステパナケルト（アルメニア語: Ստեփանակերտ）は、アゼルバイジャン共和国のカラバフ経済地区に位置する都市です。この都市は、かつて事実上独立していたアルツァフ共和国（旧ナゴルノ・カラバフ共和国）の首都として機能していましたが、2023年9月のアゼルバイジャンによる軍事作戦の結果、アゼルバイジャンの実効支配下に置かれました。これにより、多くのアルメニア人住民が町を離れ、現在はアゼルバイジャン人の管理下となっています。

歴史

町の起源とソ連時代

この地の最古の記録は中世アルメニア時代に「ヴァララクン（速い川）」という名で現れます。1847年にハンケンディに改称されるまで、この名称が使用されていました。アゼルバイジャンの文献によると、この町の起源は18世紀後半にカラバフ・ハーンが築いた村であり、「ハンケンディ（ハーンの村）」という名前はこれに由来するとされています。

現代の町は、1917年の十月革命後にハンケンディというアゼルバイジャンの村に建設されました。1923年には、バクー出身のアルメニア人共産主義指導者ステパン・シャウミャンにちなんでステパナケルトと改名され、アゼルバイジャン領ナゴルノ・カラバフ自治州の首都となりました。ソ連時代には、ステパナケルトは地域の拠点都市として発展しました。

1926年には、著名なアルメニア人建築家アレクサンドル・タマニアンによる都市デザインが採用され、その後も1930年代と1960年代に拡張が行われました。1980年代半ばまで、ステパナケルトは地域の経済拠点として、多くの製造施設が存在していました。

独立と紛争

1985年、ミハイル・ゴルバチョフによる改革政策が進む中、ナゴルノ・カラバフのアルメニア人は、同地域とアルメニアの統合を求めました。1988年には大規模なデモが発生し、ナゴルノ・カラバフ最高ソビエトがアルメニアへの編入を採択したことで、アゼルバイジャンとの対立が激化しました。この結果、ステパナケルトに住むアゼルバイジャン人は町を去ることになりました。

1991年にアゼルバイジャンがソ連からの独立を宣言すると、同国政府はステパナケルトの名称をハンケンディに戻しました。ナゴルノ・カラバフを巡る戦争が勃発し、同地域はアルメニアの支配下に入りました。戦前のステパナケルトは、ナゴルノ・カラバフ最大の都市で、約7万人の住民がいました。1992年初期には、人口は5万人にまで減少しました。

戦争中、ステパナケルトはアゼルバイジャンの爆撃により大きな被害を受けました。特に1992年初頭には、シュシャの町からのロケット砲攻撃により深刻な損害を受けました。タイム誌は当時、「ステパナケルトで損害を免れた建物はほぼ皆無」と報道しています。しかし、アゼルバイジャンの地上攻撃は失敗に終わり、1992年5月9日にアルメニア軍がシュシャを占領したことで砲撃は止みました。その後も、戦争中は度々砲撃を受けました。

1994年に停戦が成立しましたが、2020年の紛争で再び市街地が砲撃を受けました。赤十字国際委員会は、この砲撃でステパナケルトの市民が被害を受けたと警告しました。

アルツァフの降伏

2023年のナゴルノ・カラバフ衝突で、再び砲撃を受け、9月20日にアルツァフ共和国が降伏しました。これによりアルメニア人住民の脱出が始まりました。アルツァフ共和国内務省の警察は町を離れ、9月29日にアゼルバイジャン警察が公務を引き継ぎました。10月1日には、アゼルバイジャンによって医療サービスが再開されました。アルツァフ大統領宮殿からはアルツァフの国章が撤去され、アゼルバイジャンの国章が掲げられました。

10月15日には、アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領が町を訪問し、旧アルツァフ大統領宮殿前にアゼルバイジャンの国旗を掲げ、演説を行いました。10月16日には、ハンケンディの司令官が任命されました。

経済

戦前、ステパナケルトの経済は食品加工、絹織り、ワイン製造などが中心でした。戦争によって大きな打撃を受けましたが、アルメニア人ディアスポラの投資や観光により復興しました。アルメニア人ディアスポラによって複数のホテルが建てられ、2000年にはナイリ・ホテルが開業しました。

宗教的建造物

ソ連時代には、ステパナケルトの住民の多くはキリスト教徒でしたが、古くからの聖堂は存在しませんでした。信者は「文化の家」の中にある聖堂に集まっていました。18世紀に建てられた聖堂も存在しましたが、使用されていませんでした。2007年には聖ヤコブ聖堂が建立されました。

教育

ステパナケルトには5つの高等教育機関があります。その中でもアルツァフ国立大学は、1969年にバクー教育研究所の一部として設立され、1995年に現在の名称となりました。大学には7つの学部があり、4500人が教育を受けています。

気候

ステパナケルトの気候は温暖湿潤気候に属し、季節による気温変動があります。1月の平均気温は0.5度まで低下し、8月には22.6度まで上昇します。年間降水量は約560mmです。

人口動態

2021年時点で約7.5万人のアルメニア人が居住していましたが、2023年の紛争後にその多くが町を離れました。2023年10月3日時点では、病人や高齢者など数百人しか残っておらず、閑散とした状況です。一方、アゼルバイジャン人は1990年代のナゴルノ・カラバフ戦争で全員が町を離れています。

姉妹都市

カリフォルニア州モンテベロと姉妹都市提携を結んでいましたが、アゼルバイジャンはこの提携に抗議しました。

著名な出身者

アンドレ（アルメニア人歌手）、ドン・アスカリアン（映画監督）、ロベルト・コチャリャン（アルメニア共和国元大統領）、セルジ・サルキシャン（アルメニア共和国大統領）、ファフラッディン・マナホフ（アゼルバイジャン人俳優）、ゾリ・バラヤン（作家）などがいます。

この地は、歴史と紛争の交錯点であり、その複雑な背景が現在の状況を形作っています。

もう一度検索