アルツァフ共和国

アルツァフ共和国（ナゴルノ・カラバフ共和国）とは

アルツァフ共和国（アルメニア語: Արցախի Հանրապետություն）、またはナゴルノ・カラバフ共和国は、南コーカサス地方に位置し、アルメニア人が多数を占めるナゴルノ・カラバフ地方に建国された、事実上の独立国家でした。しかし、国際的にはアゼルバイジャンの領土として認識されています。首都はステパナケルト（アゼルバイジャン語名：ハンケンディ）です。

歴史的背景

この地域は歴史的に、アルメニア人とアゼルバイジャン人の間で領有権が争われてきました。ロシア帝国崩壊後、両国が独立した際にも、この問題は解決せず、ソ連時代にはアゼルバイジャン・ソビエト社会主義共和国内にナゴルノ・カラバフ自治州として組み込まれました。

1980年代後半から1990年代初頭にかけて、ソ連崩壊の混乱の中で再び紛争が激化しました。1991年、ナゴルノ・カラバフ自治州とその周辺地域は住民投票を行い、独立を宣言しました。これがアルツァフ共和国の建国につながります。

建国から紛争へ

アルツァフ共和国は、旧ナゴルノ・カラバフ自治州の大部分と、アルメニアに面するアゼルバイジャン領の一部を実効支配し、事実上の独立国家として機能しました。しかし、アゼルバイジャンはこの独立を認めず、第一次ナゴルノ・カラバフ戦争へと発展しました。その後も断続的に軍事衝突が続き、2020年には大規模な戦争が勃発し、アゼルバイジャンが優勢を確立しました。

2023年9月、アゼルバイジャンは「対テロ作戦」と称する全面攻撃を実施し、アルツァフ共和国は降伏。一旦は国家機関の解散を宣言しましたが、後に撤回し、政府機能をアルメニアのエレバンに移転させ、事実上の亡命政府となっています。

アルツァフ共和国の国家としての特徴

アルツァフ共和国は、大統領制民主主義国家であり、一院制の議会を持っていました。アルメニアと密接な関係にあり、事実上アルメニアの一部として機能していました。憲法では、民主主義と法の支配に基づく主権国家と規定しており、国民主権と基本的人権の尊重を謳っていました。

公用語はアルメニア語とロシア語であり、国民の多くはアルメニア使徒教会の信徒でした。国土は山岳地帯が多く、観光資源としてもいくつかの修道院が人気を集めていました。しかし、アルメニアとの陸路アクセスルートは、幅5kmのラチン回廊に限られており、アゼルバイジャンの封鎖によって物資の供給が困難になることもありました。

2023年紛争とその影響

2023年9月、アゼルバイジャンによる軍事作戦の結果、アルツァフ共和国は壊滅的な打撃を受けました。アルツァフ軍は武装解除され、多くのアルメニア人がアルメニア本土へと脱出しました。結果的に、アルツァフ共和国は領土と実効支配をほぼ喪失し、国家としての機能も大幅に縮小しました。

2023年12月、シャフラマニャン大統領は国家解体の撤回を宣言しましたが、アルメニア政府はアルツァフ亡命政府の樹立に否定的であり、資金提供も行わないと表明しています。今後のアルツァフの行方は不透明な状況が続いています。

国名の由来

「ナゴルノ・カラバフ」という名称は、ロシア語の「カラバフ高地」に由来します。「カラバフ」はテュルク語で「黒い」を意味し、この地が緑豊かなことを示唆します。「アルツァフ」は、かつてこの地を統治していたアルメニア人国家の名であり、民族独立を鼓舞する意味も込められています。

政治体制と外交

アルツァフ共和国は、民主主義と法の支配を基本とし、大統領制を採用していました。議会は比例代表制で選出され、大統領は国民の直接投票により選ばれていました。しかし、外交的には、アブハジア、南オセチア、沿ドニエストルといった未承認国家のみが相互承認を行っていました。

アルメニアとは密接な関係にありましたが、正式な独立承認は行われていませんでした。また、アゼルバイジャンとの間には深刻な対立があり、アゼルバイジャン政府はアルツァフ共和国を認めていません。

経済と国民

アルツァフ共和国の通貨はアルメニア・ドラムが使用されていました。主な産業は農業で、特にブドウ栽培が盛んでした。また、手工業や鉱業も重要な産業でした。国民のほとんどはアルメニア人で、アルメニア使徒教会の信徒でした。

紛争以前は人口約15万人でしたが、2023年の紛争で10万人以上がアルメニアへ脱出したため、ナゴルノ・カラバフの人口は激減し、ほぼゼロに近い状態となっています。

文化

義務教育は6歳から18歳までと定められており、アルツァフ大学などの教育機関が存在しました。また、サッカーが人気のスポーツで、独自のサッカーリーグも存在していました。

まとめ

アルツァフ共和国（ナゴルノ・カラバフ共和国）は、長年にわたる紛争の末に事実上消滅しました。しかし、その歴史と文化は、多くのアルメニア人にとって重要なものであり、今後の動向が注目されます。2023年の紛争は、この地域の歴史に大きな転換点をもたらし、今後の南コーカサス地域の安定に影響を与える可能性があります。

この情報が、アルツァフ共和国について理解を深める一助となれば幸いです。

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