シュトゥルム・ウント・ドラング

シュトゥルム・ウント・ドラング：理性への反逆と感情の奔流

18世紀後半のドイツ、啓蒙主義の理性主義が全盛を極める時代において、革新的な文学運動が花開きました。それがシュトゥルム・ウント・ドラング（Sturm und Drang）です。直訳すると「嵐と衝動」や「嵐と圧力」を意味するこの運動は、古典主義や啓蒙主義の硬直した形式や理性偏重への反発として生まれ、後のロマン主義へと繋がる重要な橋渡しとなりました。

運動の起源と時代

シュトゥルム・ウント・ドラングという名称は、フリードリヒ・マクシミリアン・クリンガーの同名戯曲（1776年）に由来します。運動の期間については諸説ありますが、1767年から1785年頃が一般的です。この時期、若き才能ある作家たちは、既存の規範を打ち破るべく、感情表現を重視した奔放な作品を生み出しました。彼らの作品には、個人の情熱、自然への憧憬、そして社会に対する批判が溢れており、それまでの抑制された表現様式とは対照的な、力強くダイナミックな表現が特徴です。

代表的な作家と作品

この運動の中心人物として、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテとフリードリヒ・シラーが挙げられます。ゲーテは『ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン』（1773年）で、中世騎士の自由奔放な生き様を描き、個人の自由と尊厳を訴えました。『若きウェルテルの悩み』（1774年）は、激しい恋と絶望を描いた青春小説として、当時の若者たちの共感を呼びました。一方、シラーは『群盗』（1781年）や『たくらみと恋』（1784年）といった戯曲で、社会的不正や権力への反抗をテーマに、劇的な表現と緊迫した展開で読者を魅了しました。これらの作品は、感情の激しさやドラマチックな展開、そして個人の内面世界への深い洞察が共通しており、シュトゥルム・ウント・ドラングの精神を体現しています。

音楽におけるシュトゥルム・ウント・ドラング

文学における運動に加えて、音楽においても「シュトゥルム・ウント・ドラング」という用語が用いられることがあります。これは主に、ヨーゼフ・ハイドンの1768年から1772年頃の作品を指します。この時代のハイドンの作品には、短調の多用やフーガ的な対位法など、それまでの彼の作風とは異なる特徴が見られます。20世紀初頭の音楽学者、ヴィゼヴァはこれを「ロマン的危機」と捉え、「シュトゥルム・ウント・ドラング」という表現を用いました。

しかし、この音楽における「シュトゥルム・ウント・ドラング」は、文学における運動とは時期が異なり、またヴィゼヴァの主張にも異論もあります。それでも、ハイドンだけでなく、モーツァルトもこの時期にト短調の交響曲第25番やニ短調の弦楽四重奏曲第13番など、感情表現豊かな作品を残しており、時代的な音楽的傾向を示唆していると言えるでしょう。

日本語表記と誤解

日本ではシュトゥルム・ウント・ドラングは「疾風怒濤」と訳されますが、これは「嵐と大波」という意味で解釈されることも多いです。しかし、より正確な訳は「嵐と衝動」と言えるでしょう。英語圏では「Storm and Stress」や「Storm and Urge」といった訳語が用いられています。また、片仮名表記についても「シュトゥルム」を「シュトルム」、「ドラング」を「ドランク」と表記することもあります。

まとめ

シュトゥーム・ウント・ドラングは、理性主義に疑問を呈し、感情表現を重視した革新的な文学運動でした。その影響は、後のロマン主義に受け継がれ、現在でも文学や芸術に大きな足跡を残しています。音楽においても、同様の感情表現の激しさが見られ、時代を反映した重要な音楽史的現象として捉えることができます。多様な解釈が存在するものの、この運動が18世紀後半の文化に与えた影響は計り知れません。 様々な解釈や議論がある中で、その時代背景や、作家たちの情熱を理解することが、シュトゥルム・ウント・ドラングを理解する上で重要です。

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