シュパイアー条約 (1570年)

1570年 シュパイアー条約：分裂したハンガリーの再編

1570年に締結されたシュパイアー条約（ドイツ語: Vertrag von Speyer、ハンガリー語: Speyeri szerződés）は、第5回シュパイアー帝国議会において合意された、ハンガリー王国の命運を大きく左右する重要な条約です。当時のハンガリー王国は、ハプスブルク家の支配下にある王領ハンガリーと、ヤーノシュ2世（ヤーノシュ・ジグモンド）が統治する東ハンガリー王国という、二つの勢力に分裂していました。この条約は、長きにわたる対立に終止符を打ち、ハンガリーの再編を目指すものでした。

条約の概要

シュパイアー条約の主な内容は、以下の通りです。

ヤーノシュ2世がハンガリー王位を放棄し、ハプスブルク家のマクシミリアン2世（神聖ローマ皇帝、ハンガリー王としてはミクシャ1世）の王位を承認する。
マクシミリアン2世は、ヤーノシュ2世を「トランシルヴァニア公」として承認し、その領土の存続を認める。

この条約により、形式的にはハンガリー王国は統一されることとなりました。しかし、実際にはヤーノシュ2世はトランシルヴァニア公として引き続き広大な領土を保持し、一定の自治権を認められていました。

トランシルヴァニア公国の位置づけ

ヤーノシュ2世は、正式には「トランシルヴァニアおよびハンガリー王国の一部（パルティウム）の君主」（ラテン語: princeps Transsylvaniae et partium regni Hungariae dominus）という称号を名乗ることになりました。この称号が示すように、トランシルヴァニア公国は一般的にはハンガリー王国に従属する地位であると認識されていました。

しかし、1571年にヤーノシュ2世が死去すると、状況は一変します。ハプスブルク家が支援する候補を退けて公位を継承したバートリ・イシュトヴァーンは、ハプスブルク家との繋がりを断ち、オスマン帝国を宗主とすることを決断しました。これにより、トランシルヴァニア公国は事実上独立し、独自の道を歩むことになったのです。

条約の意義とその後

シュパイアー条約は、ハンガリー王国の分裂状態を一時的に解消し、ハプスブルク家の支配を確立する上で一定の役割を果たしました。しかし、トランシルヴァニア公国の自立という新たな火種を生み、その後のハンガリーの歴史に大きな影響を与えることとなりました。トランシルヴァニア公国は、その後もオスマン帝国の影響下で独自の発展を遂げ、ハンガリーとは異なる道を歩むことになります。

シュパイアー条約は、単なる講和条約としてだけでなく、その後のハンガリーの政治・社会構造を大きく変える転換点として、歴史に深く刻まれています。

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