シュロモ・ミンツ

シュロモ・ミンツ：多才なる巨匠

1957年 10月30日、モスクワに生を受けたシュロモ・ミンツは、ヴァイオリン、ヴィオラ、そして指揮という多岐にわたる分野で国際的に活躍するイスラエルの音楽家です。

類稀なキャリアの始まり

生後間もなく家族と共にイスラエルへ移住したミンツは、2歳でピアノ、3歳でヴァイオリンを始め、幼くして非凡な音楽的才能を見せました。テルアヴィヴ音楽院で学んだ後、6歳からは多くの名ヴァイオリニストを育てたイロナ・フェヘールに師事。さらに9歳の時には、巨匠アイザック・スターンの前で演奏する機会を得ます。11歳で渡米し、ズービン・メータ指揮イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団との共演で鮮烈なコンサートデビューを飾りました。この時の演奏はメータに強い感銘を与え、後に病気で出演できなくなったイツァーク・パールマンの代役としてパガニーニのヴァイオリン協奏曲第1番を再びイスラエル・フィルと共演。これがきっかけで、その後も定期的にメータとの共演を重ねることになります。

スターンとの出会いとジュリアード

アイザック・スターンとの出会いはミンツの音楽人生に大きな影響を与えました。スターンは彼の才能を高く評価し、アメリカ＝イスラエル文化基金からの奨学金の手配を助けました。これにより、ミンツはニューヨークのジュリアード音楽院に進学し、名指導者ドロシー・ディレイのもとで研鑽を積みます。

国際舞台での成功

16歳でスタインバーグ指揮ピッツバーグ交響楽団と共演し、カーネギーホールでのデビューを飾るという、驚くべき早さで主要な舞台に進出しました。彼は国際的なコンクールを経ることなく演奏活動を開始するという異例の経歴を持ち、アメリカ＝イスラエル文化財団からの強力な支援を受けながら、その活動の場を急速に広げていきます。1976年にはヨーロッパデビューを果たし、翌年には大規模なツアーを敢行。年間100回を超える演奏会をこなし、世界の主要な音楽祭にも常連として招かれるようになります。特に1983年のフーベルマン・フェスティバルでは、スターンやイダ・ヘンデルといった伝説的なヴァイオリニストたちと共演。1985年にはザルツブルク音楽祭でバッハの無伴奏ヴァイオリン作品全曲演奏を行い、その円熟した解釈が高い評価を得ました。1984年には待望の初来日も果たしています。

レコーディング活動

1980年、ドイツ・グラモフォンと専属契約を結び、集中的なレコーディング活動を開始。メンデルスゾーン、ブルッフ、パガニーニ、クライスラーなどの録音を次々とリリースしました。特にパガニーニの「24のカプリース」全曲録音は、完璧な技巧に加え、低音から高音まで一貫した艶やかな美音と独自のボウイング技術が際立ち、現在でもこの曲の最高の演奏の一つとして挙げられます。バッハの無伴奏ソナタとパルティータ全曲録音（1984年発表）も高い評価を受け、多くの音楽賞を受賞しました。しかし、1990年代に入るとドイツ・グラモフォンとの契約を終了し、レコーディング活動は一時的に停滞します。皮肉にもこの時期、彼の演奏は円熟味を増し、クルト・ザンデルリングやセルジュ・チェリビダッケとのライヴ録音が海賊版として出回るほどでした。2000年以降は、ミュージックマスターズやRCAなど、特定のレーベルに縛られない形で再び録音を開始。ヴィヴァルディの協奏曲シリーズ、ブラームスのソナタ全集、モーツァルトの協奏交響曲などをリリースしています。また、指揮者としてストラヴィンスキーの『兵士の物語』を録音するなど、チャリティー活動にも積極的に参加しています。

指揮と教育活動

18歳からは指揮者としても活動を開始し、ロイヤルフィルハーモニックオーケストラやNHK交響楽団など、世界の主要オーケストラと共演しています。また、ヴィオラ奏者としても演奏会やレコーディングを行い、室内楽にも深く携わっています。演奏活動に加え、彼は次世代の音楽家の育成にも情熱を注いでいます。パリ音楽院やマンハッタン音楽学校、クリーブランド音楽院で教鞭をとるほか、イスラエルのケシュト・エイロン国際ヴァイオリンマスターコースや世界各地でマスタークラスを実施。国際的なコンクールの審査員としても重要な役割を果たしており、チャイコフスキー国際コンクールやエリザベート王妃国際音楽コンクールなどで審査員を務めたほか、ヴィエニャフスキ国際ヴァイオリン・コンクールや宗次エンジェルヴァイオリンコンクールでは審査委員長を務めています。

音楽への信念

母国語であるヘブライ語に加え、英語、フランス語、イタリア語など8ヶ国語を操る語学力を持ち、その活躍の場は日本を含む世界中に広がっています。演奏においては、単なる高度な技巧の披露ではなく、音楽が聴衆に語りかけ、共感を呼び起こすような「双方向のコミュニケーション」を重視しています。また、音楽を通じて世界の平和を願う姿勢は、デビュー以来変わらない彼の揺るぎない信念です。現在、彼は1743年製のグァルネリ・デル・ジェズ「イル・カンノーネ」（ニコロ・パガニーニの愛器の同型器）をはじめ、ストラディバリやベルゴンツィといった名器を使用しています。素晴らしいテクニックと比類なき美しい音色、そして深い音楽性を持つシュロモ・ミンツは、現代クラシック音楽界において特別な存在感を放ち続けています。

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