ショート スターリング

ショート・スターリング：イギリス空軍初の四発重爆撃機

第二次世界大戦初期、イギリス空軍の主力爆撃機として活躍したショート・スターリングは、その名の通りスコットランドのスターリング市に由来する、同軍初の四発爆撃機です。ハンドレページ・ハリファックスやアブロ・ランカスターと共に戦略爆撃の中核を担いましたが、高高度性能の悪さや爆弾搭載量の制限から、他の2機種よりも早く退役しました。

開発の経緯

スターリングは、1936年のイギリス空軍による四発爆撃機の開発要求に応える形で誕生しました。飛行艇製造で知られたショート社が開発を引き受けた背景には、同社が既に四発飛行艇の開発経験を持っていたことが挙げられます。実際に、スターリングの設計は、1934年から開発されていたサンダーランド飛行艇をベースとしており、ショート社はまず縮小模型の実験機を製作、テストを行い、そのデータを元に試作機へと着手しました。しかし、陸上機の製造経験が不足していたショート社にとって、開発は容易ではありませんでした。

試作1号機は1939年5月に初飛行を果たしたものの、着陸に失敗して損傷。その後、試作2号機が実質的な量産第1号機となりました。イギリス空軍の要求仕様は、標準的な格納庫サイズに収まること、分解して輸送可能であること、カタパルト射出に対応できることなどを求めていました。この結果、スターリングはアスペクト比が小さく、搭載量に対して機体が窮屈なものとなりました。サンダーランド飛行艇と同様の肩翼式を採用したため、主脚は長く複雑な構造になり、独自の二輪式尾輪も採用されました。爆弾倉は胴体下部と主翼内にも配置されましたが、その小ささから大型爆弾の搭載は困難でした。

量産は1940年8月に開始されましたが、機体の不具合やドイツ軍の空襲による生産遅延もあり、実戦投入は1941年までずれ込みました。

戦場の活躍

1941年2月、ロッテルダムへの夜間爆撃で実戦デビューを果たしたスターリングは、その後昼夜を問わず様々な爆撃任務に従事しました。初期には護衛戦闘機なしで昼間爆撃を行うこともありましたが、強力な防御火器により大きな戦果をあげました。ブレニム軽爆撃機に代わってドイツ占領下のフランスへの攻撃、さらにはベルリン、チェコ、北イタリアへの爆撃も実施しました。しかし、昼間作戦には無理があったため、1941年末からは夜間攻撃任務に専念しました。

欠点と退役

スターリングはイギリス空軍初の近代的な四発爆撃機でしたが、欠点も多かったのです。アスペクト比の小ささから高高度性能が低く、爆弾搭載量も制限されていました。胴体と主翼に分散された爆弾倉も大型爆弾搭載の妨げとなりました。複雑な構造の主脚と尾輪は着陸時の事故を招くこともありました。これらの欠点は、後に出現したハリファックスやランカスターと比較して性能面での劣勢を招きました。

1943年には性能的に時代遅れとなり、重要度の低い目標への攻撃や機雷敷設、レーダー妨害作戦などに転用されました。1944年9月に最後の爆撃任務を終えると、グライダー曳航機や輸送機として活躍しましたが、これも長続きせず、1946年にはイギリス空軍から全機退役しました。

他国での運用

第二次世界大戦中、ドイツ空軍は鹵獲したスターリングを特殊任務に使用しました。また、1948年から1949年の第一次中東戦争では、エジプト空軍が6機を導入し爆撃飛行隊を編成しましたが、1機を失い、1951年頃には退役しました。

各型式

スターリングには、Mk.1からMk.5までの型式が存在し、エンジンや武装、用途などが異なりました。Mk.1は最初の量産型で、Mk.3は防御火器を強化、Mk.4はグライダー曳航型、Mk.5は貨物輸送型としてそれぞれ運用されました。

現存状況

第二次世界大戦で使用された主要な四発重爆撃機の中で、スターリングは現存する完全な機体が存在しないという特徴があります。しかし、オランダやノルウェーなどで墜落した機体の残骸が発見されており、発掘調査が試みられています。これらの機体から、戦争の爪痕と、この機体への関心の高さを垣間見ることができます。 現在も、いくつかの機体の残骸の発掘や引き上げの計画が進められているものの、実現には多大な費用と技術的な課題が立ちはだかっています。

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