シロテテナガザル

シロテテナガザルは、霊長目に属するテナガザル科のサルです。学名をHylobates larといい、私たちのよく知るテナガザルの一種で、日本の動物園などでも比較的多く見ることができます。日本の法律では特定動物にも指定されています。

生息地

このサルは、主に東南アジアの熱帯雨林に生息しています。具体的には、中国南西の一部、インドネシア（スマトラ島北部）、カンボジア、タイ、ベトナム、マレーシア（マレー半島）、そしてミャンマー東部など、広い範囲に分布しています。

形態的特徴

シロテテナガザルの体毛の色は、暗い茶色から明るい茶色まで非常に多様です。これは生息地域や亜種による違いではなく、個体によって様々です。顔の周りには白い毛が輪のように生えており、特徴的な顔立ちをしています。また、手足の先端部も白い毛で覆われており、これが「白手」という和名の由来となっています。オスとメスの間に、体色や体格に目立った違いはほとんどありません。他のテナガザルと同様に腕が非常に長く、尾はありません。

亜種

シロテテナガザルには、以下の5つの亜種が認められています。

マレーシアシロテテナガザル (Hylobates lar lar)
カーペンターシロテテナガザル (Hylobates lar carpenteri)
セントラルシロテテナガザル (Hylobates lar entelloides)
スマトラシロテテナガザル (Hylobates lar vestitus)
ユンナンシロテテナガザル (Hylobates lar yunnanensis*)

なお、近縁種であるボウシテナガザルを本種の亜種とする考え方もあります。両種は交配が可能であることが知られていますが、鳴き声が全く異なることや、ボウシテナガザルに固有の体色パターンがあることから、現在では多くの研究者によって別種として扱われています。

生態

シロテテナガザルは昼行性で、生活のほとんどを樹上で過ごす純粋な樹上性のサルです。地面に降りることは非常に稀です。長い腕を巧みに使って、木から木へと移動します。この移動方法は「ブラキエーション（腕わたり）」と呼ばれ、鉤状になった手で枝をつかみ、振り子のように体を揺らして勢いをつけ、ダイナミックに枝から枝へと飛び移ります。社会構造は非常に特徴的で、通常、一夫一婦のペアを形成し、このペア関係は一生涯続きます。家族単位で固定された縄張りを持っており、他のテナガザルに対しては、大きな声で鳴き威嚇することで自分の縄張りに近づけないようにします。食料としては果実を最も好みますが、木の葉や芽、時には昆虫なども食べます。繁殖については、妊娠期間は約7ヶ月で、一度に生まれる子どもは通常1頭です。子どもは約2年間母親の乳を飲んで育ち、およそ8歳で性的に成熟するとされています。野生環境での平均寿命は25年程度と考えられています。自然界における天敵としては、トラ、ヒョウ、ウンピョウ、アジアゴールデンキャット、ドールなどが挙げられます。

保全状況

シロテテナガザルは、現在、絶滅の危機に瀕しています。国際自然保護連合（IUCN）のレッドリストでは、絶滅危惧IB類（ENDANGERED）に指定されています。また、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約（ワシントン条約）の附属書Iにも掲載されており、国際的な商業取引が厳しく制限されています。

人間活動との関わりと脅威

この美しいサルは、様々な人間活動による脅威に直面しています。食料として狩猟されることや、子どもをペットにするために親が殺されて捕獲されるといった問題が起きています。しかし、最も深刻な脅威は生息地の喪失です。プランテーション開発、農地の拡大、都市の建設などのために、東南アジアでは熱帯林が急速に破壊されています。国立公園や自然保護区も存在しますが、残念ながら監視体制が十分でない場所も多く、密猟や違法な森林伐採が完全に防げているとは言えない状況です。これらの脅威により、シロテテナガザルの個体数は減少し続けており、保全活動が喫緊の課題となっています。

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