シンガーズ・アンリミテッド

ザ・シンガーズ・アンリミテッド

アメリカ合衆国のシカゴで産声を上げたザ・シンガーズ・アンリミテッド（The Singers Unlimited）は、1970年代を中心に活動した4人組のジャズ・コーラス・グループです。彼らは、当時としては革新的であった多重録音技術を駆使し、まるで天上の調べのような、重層的で美しいアカペラ・ハーモニーを創り上げ、その唯一無二のサウンドでジャズ界に確固たる地位を築きました。

結成と飛躍

グループの中心人物は、以前男性コーラス・グループ「ハイ・ローズ」を率いて活動していたジーン・ピュアリングでした。ハイ・ローズ解散後、ピュアリングは新たなコーラス・サウンドの可能性を追求し、1967年にレン・ドレスラー、ドン・シェルトン、そして紅一点のボニー・ハーマンという才能豊かなメンバーと共にザ・シンガーズ・アンリミテッドを結成します。ジャズ界の巨匠、オスカー・ピーターソンの強い推薦がきっかけとなり、彼らはドイツの名門ジャズ・レーベルであるMPSと契約を交わすことになります。

1971年、彼らは文字通りグループの真骨頂を示すアルバム『ア・カペラ』で鮮烈なデビューを飾ります。このアルバムは批評家からも高い評価を受け、彼らの存在を一躍知らしめました。その後も彼らは精力的に活動を続け、1973年には推薦者であるオスカー・ピーターソンとの共演盤『イン・チューン』を発表するなど、ジャズ界の第一線で活躍するアーティストたちとも交流を深めました。

グループは1981年に活動を停止するまでに、実に15枚ものアルバムを世に送り出しました。中でも、デビュー作にして代表作の一つである『ア・カペラ』（1971年）や、時代を超えてクリスマスの定番アルバムとして愛され続ける『クリスマス』（1972年）は、彼らの人気を決定づける重要な作品となっています。

音楽性の特徴

ザ・シンガーズ・アンリミテッドの最も特筆すべき点は、その音楽制作手法にあります。一般的なライブ活動を想定したグループとは異なり、彼らは元々、商業用メディア（CMなど）のための録音制作を主な目的として結成されたという背景を持ちます。このため、彼らのサウンドはスタジオでの多重録音技術を前提として構築されています。

メンバー一人ひとりがそれぞれのパートを緻密に重ねて歌い、時には一人が複数のパートを担当することで、通常の4声コーラスの枠を超えた、驚くほど厚みと奥行きのある複雑なハーモニーを生み出しました。この手法により、彼らは人間の声だけを用いて、まるで精巧なオーケストラのような響きを作り出すことに成功したのです。このスタジオワークに特化した革新的なアプローチこそが、彼らのサウンドを唯一無二のものとし、他のボーカルグループとは一線を画す存在たらしめました。

メンバー構成

グループは以下の4名で構成されていました。

ジーン・ピュアリング（Gene Puerling）：バス/バリトンを担当し、グループのリーダーとして多くのアレンジも手掛けました。
レン・ドレスラー（Len Dresslar）：テナーを担当し、高音部で美しいラインを描きました。
ボニー・ハーマン（Bonnie Herman）：紅一点のソプラノとして、そのクリアな高音でハーモニーに彩りを加えました。
ドン・シェルトン（Don Shelton）：バリトンを担当し、ハーモニーの核を支えました。

選曲と影響

彼らのレパートリーは、ジャズ・スタンダードが中心でした。「エイプリル・イン・パリス」「時の過ぎゆくまま」「ラウンド・ミッドナイト」「クライ・ミー・ア・リヴァー」といった往年の名曲を、彼らならではの洗練されたハーモニーで蘇らせました。一方で、『ア・カペラ』や『ア・カペラ2』といったアルバムでは、意外にもビートルズの楽曲も取り上げており、彼らの音楽性の幅広さを示しています。

特に1972年リリースのアルバム『クリスマス』は、本国アメリカだけでなく、ここ日本でも大ヒットを記録し、以来、クリスマスの定番アルバムとして多くの人々に愛聴されています。毎年ホリデーシーズンになると、様々な場所で彼らの美しい歌声が耳にされるほど、社会に浸透した作品と言えるでしょう。

ザ・シンガーズ・アンリミテッドは、その短い活動期間ながらも、多重録音を駆使したボーカル・アンサンブルの可能性を大きく広げ、後世の多くのアカペラ・グループやボーカリストに計り知れない影響を与えました。彼らの創り上げた緻密で美しいハーモニーは、今なお色褪せることなく、多くの音楽ファンを魅了し続けています。

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