シンガー日鋼

シンガー日鋼株式会社：歴史と変遷

シンガー日鋼株式会社は、かつて日本でシンガーブランドのミシンや散弾銃などを製造していた企業です。2000年に解散し、その歴史に幕を閉じました。

概要

本社と工場は栃木県宇都宮市に位置し、資本金は6億4000万円。日本製鋼所と米国のシンガー社が株式を半分ずつ所有する合弁会社でした。

歴史

軍需工場からミシン製造へ

シンガー日鋼のルーツは、1943年に日本製鋼所宇都宮製作所として設立された軍需工場に遡ります。大東亜戦争中には、中島飛行機向けの軍需部品を製造していました。しかし、宇都宮空襲で壊滅的な被害を受け、終戦とともに軍需産業としての機能は解体されました。

戦後、平和産業への転換を図り、1945年10月から家庭用ミシンの製造を開始。1949年11月には、日本製鋼所から分離独立する形でパインミシン製造株式会社が発足しました。高い技術力で製造されたパインミシンは、品質の高さから連合国軍占領下の日本における輸出品として実績を残しました。

国産ミシンの品質向上とシンガー社の提携

パインミシン製造は、蛇の目ミシン工業などと共同で国産家庭用ミシンの統一規格策定に貢献。部品の互換性を持たせるアセンブリー生産方式を確立し、米国製ミシンに対抗しました。通商産業省の支援や業界全体の努力により、国産ミシンの品質は向上し、1960年代末には世界一の地位を確立しました。

米国シンガー社は、日本製ミシンの品質に着目し、自社ブランドの製造を日本企業に委託する戦略に転換。1954年にパインミシン製造の株式を取得し、生産能力向上を図りました。当初は「メリット」ブランドで製造を行わせましたが、品質の高さからすぐに「シンガー」ブランドでの製造を許可。1959年には、年産7万台に達し、その一部が輸出されました。宇都宮工場で生産されたシンガーミシンは、型式番号に「U」、シリアルナンバーに「T」が付いていることで識別できます。

1971年6月、パインミシン製造は日本製鋼所と米国シンガー社の共同出資により、シンガー日鋼株式会社と改称されました。

散弾銃事業への参入と撤退

1965年、シンガー日鋼は川口屋林銃砲火薬店の依頼により、ファブリックナショナルと技術提携し、ブローニング・オート5を国産化。その後、ベレッタとも技術提携し、半自動散弾銃を製造・販売しました。シンガー製の散弾銃は、国産で初めて交換式チョークを採用したことで知られています。

しかし、1980年代に入ると銃刀法の強化により国内市場が縮小。KFCの北米市場撤退に伴い、シンガー日鋼も散弾銃事業から撤退しました。

ミシン事業の終焉と会社解散

銃器事業撤退後、シンガー日鋼は米国シンガー社向けのミシン製造に注力しましたが、1990年代末には需要低迷と中国製ミシンの台頭により業績が悪化。親会社の米国シンガー社も経営難に陥り、1999年に連邦倒産法を申請しました。

これを受け、シンガー日鋼は1999年11月に宇都宮工場の閉鎖を発表。2000年1月に工場を閉鎖し、従業員を解雇しました。事業継承を模索しましたが、米国シンガー社が日本での生産継続を断念したため、2000年12月末に解散手続きを完了しました。

工場跡地の現在

シンガー日鋼の工場跡地は、住宅地やショッピングセンター（ベルモール）として再開発されました。住宅地にある公園の一つには「パイン公園」と名付けられ、その歴史を偲ぶことができます。また、宇都宮大学工学部前の桜並木は、1952年にパインミシン製造の従業員によって植樹されたもので、現在では観光スポットとなっています。

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