シンジャール

シンジャール（クルド語: شنگال）は、イラク北部のニーナワー県に位置するシンジャール郡の行政中心地である。2015年7月1日時点での人口は約3万9400人であった。この都市はかつてシンガラという名で知られており、特に少数派宗教であるヤジディ教徒が多く居住することで知られている。市近郊のシンジャール山脈の頂には、「40人の男の寺」を意味するチェルメラ寺が存在する。

シンジャールの地には、古くから多様な勢力が興亡を繰り返した歴史がある。2世紀頃には、ローマ帝国がその広大な版図の国境線、リメスの一部をこの地に構築していた。西暦360年には、東方の強国であったサーサーン朝ペルシアの支配下に入った。6世紀初頭には、Qadišaiēと呼ばれる人々がこの地に居住していたことが記録されている。イスラム勢力の拡大に伴い、640年にはイヤド・イブン・ガンムに率いられたムスリムのアラブ人によって占領され、イスラム世界の一部となった。

近代に入り、シンジャールは特にそのヤジディ教徒人口ゆえに、紛争の舞台となることが増えた。2007年には、イラクにおけるイスラム過激派組織によって複数の爆発事件が引き起こされ、数百人ものヤジディ教徒が犠牲となった。

そして、2014年夏、過激派組織ISIL（いわゆる「イスラム国」）がイラク北部で攻勢を強め、ニーナワー県の広範な地域を掌握した。同年8月、ISILはシンジャール市を襲撃し、占領下に置いた。ISILはここでヤジディ教徒に対し凄惨な虐殺を行った。およそ2000人のヤジディ男性が殺害され、女性や子どもたちは奴隷として連れ去られた。この残虐行為により、多数のヤジディ教徒が家を追われ、難民となった。国連の報告によると、2014年8月のISILによる攻撃に関連して、合計5000人ものヤジディ市民が殺害されたと推定されている。

ISILによる支配が続く中、クルド人部隊はシンジャール奪還を目指し、戦闘態勢を整えた。2014年12月20日夜には、クルド軍によるシンジャール奪還に向けた大規模な軍事作戦「シンジャールの戦い」が開始された。しかし、特に市街地の南部ではISILの激しい抵抗に遭い、戦闘は困難を極めた。

およそ1年に及ぶ攻防の末、2015年11月13日、アメリカ軍の航空支援を受けたクルド軍およびヤジディ民兵部隊が、シンジャールからISILを完全に排除し、都市の支配を取り戻した。

都市解放後、シンジャール東部では78人以上のヤジディ女性の遺体が埋められた集団墓地が発見された。これらの女性たちは、ISILによって処刑されたものと考えられている。

長年の抑圧と虐殺を経験したヤジディ教徒の中には、解放後にスンニ派イスラム教徒に対する報復行為に及ぶ者も現れ、強盗や放火、殺人といった事件が発生した。

シンジャールにおける政治的・軍事的な状況も変化した。2017年8月には、ヤジディ社会の一部が自らを「エジドハン」（政府）と称する自治組織の発足を宣言した。同年10月17日には、従来駐留していたクルド人部隊ペシュメルガが撤収し、代わりにイラク連邦政府軍と、シーア派主体の民兵組織である大衆機動部隊がシンジャールへの駐留を開始した。

シンジャールは、その地理的重要性と多様な民族・宗教構成ゆえに、歴史を通じて多くの争乱に見舞われてきた。特に近年のISILによる壊滅的な被害は、この地のヤジディ教徒社会に深い傷を残した。都市は奪還されたものの、復興とコミュニティ間の和解、そして将来の安定に向けた課題は依然として大きい。

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