シンフォニー・イン・C (バレエ)

シンフォニー・イン・C

『シンフォニー・イン・C』は、20世紀を代表する振付家ジョージ・バランシンが、ジョルジュ・ビゼーの『交響曲ハ長調』に触発されて創作した1幕のバレエ作品です。1947年に『水晶宮』として初演され、後に改題されました。ストーリーを持たない抽象的なバレエでありながら、バランシンの作品の中でも特に評価が高く、世界各国のバレエ団で上演されています。

制作の背景

1947年、バランシンはパリ・オペラ座バレエ団にゲスト振付家として招かれました。当時、同バレエ団は芸術監督不在という状況でした。バランシンは自身の作品の中から『セレナーデ』、『アポロ』、『妖精の接吻』を選び、さらに新作として『水晶宮』を振り付けることにしました。

音楽には、フランス人作曲家の作品がふさわしいと考えたバランシンに、イーゴリ・ストラヴィンスキーがビゼーの『交響曲ハ長調』を推薦しました。この交響曲は、ビゼーが17歳の時に作曲したもので、彼の生前には発表されず、死後80年を経てようやく世に出たという経緯を持っています。

作品の特徴

『交響曲ハ長調』を聴いたバランシンは、わずか2週間で1幕のバレエ作品を振り付けました。当初は、ルビー、サファイア、エメラルド、クリスタルなどの妖精が登場する台本がありましたが、バランシンはこれを廃し、各楽章のエトワールのコスチュームカラーとして採用しました。このコンセプトは、後の作品『ジュエルズ』にも通じるものです。

初演時のタイトルは『水晶宮』で、舞台装置には水晶のブーケが飾られていました。しかし、1960年代の上演を最後に、この装置は廃止されています。翌年、バランシンは振付に大幅な手を加え、コスチュームも女性は白のチュチュ、男性は黒のコスチュームに改め、タイトルを『シンフォニー・イン・C』としました。

構成

この作品は4つの楽章で構成され、各楽章ごとに男女のエトワール、ソリスト、そしてコールド・バレエが登場します。

第1楽章 アレグロ・ヴィーヴォ: 『水晶宮』でのコスチュームカラーはルビーの赤。シャープで素早い動きが特徴です。
第2楽章 アダージョ: 『水晶宮』でのコスチュームカラーはサファイアの青。『白鳥の湖』第2幕にも通じる抒情性を持つ美しい場面です。
第3楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ: 『水晶宮』でのコスチュームカラーはエメラルドの緑。躍動的な音楽に乗せて、ダンサーたちが舞台上を舞います。
第4楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ: 『水晶宮』でのコスチュームカラーはクリスタルの白。全楽章のエトワール、ソリスト、コールド・バレエが舞台に勢揃いし、総踊りでフィナーレを迎えます。

評価と影響

『シンフォニー・イン・C』は、バランシンの作品の中でも特に評価が高く、パリ・オペラ座バレエ団では最も上演回数が多い作品の一つです。ビゼーの音楽をバレエで視覚化することに成功し、ストーリーのない抽象的なバレエでも観客を魅了できることを証明しました。

この作品は、ダンサーに高度な技術を要求するだけでなく、音楽とダンスの調和、そして舞台全体の構成美が重要となります。バランシンの音楽に対する深い理解と、それを視覚的に表現する才能が、この作品を不朽の名作たらしめていると言えるでしょう。

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