ジェイク・アンド・ディノス・チャップマン

ジェイク・アンド・ディノス・チャップマンは、兄ディノス（1962年生まれ）と弟ジェイク（1966年生まれ）の兄弟によるイギリスのアーティストユニットで、「チャップマン・ブラザーズ」とも呼ばれます。ロンドンを拠点に活動し、その作品は暴力、セックス、死といったタブーとされるテーマを扱い、グロテスクで挑発的な表現が特徴です。

二人はともにロイヤル・カレッジ・オブ・アートを卒業後、同じくイギリスのアーティストであるギルバート&ジョージのアシスタントを務め、その後、共同で作品制作を開始しました。1991年、彼らはスペインの画家フランシスコ・ゴヤの連作版画「戦争の惨禍」に着想を得た作品『Disasters of War』を発表し、美術界に衝撃を与えました。この作品は、ゴヤの版画に描かれた殺戮シーンをミニチュア模型で再現したもので、その衝撃的な内容と精巧な造形が大きな話題となりました。

1994年には、この模型を等身大に拡大した作品『Great Deeds Against the Dead』を発表。さらに、奇形の子供を模した人形に性器を取り付けた作品『Fuckface』や『Two-Faced Cunt』といった、さらに過激な作品を次々と発表し、賛否両論を巻き起こしました。これらの作品は、倫理的な問題や表現の自由を巡って、多くの議論を引き起こし、彼らの名を一躍有名にしました。

2000年には、彼らの代表作の一つである『Hell』が発表されました。この作品は、卍の形に配置された9つのガラスケースの中に、ナチスの軍服を着た5000体以上の人形や奇形の人形が、残虐行為を繰り広げている様子を表現したもので、その圧倒的なスケールとグロテスクな描写が観る者に強い衝撃を与えました。残念ながら、この作品は2004年の火災によって焼失してしまいました。

彼らの作品は、その過激な内容からしばしば批判や抗議の対象となりますが、現代美術におけるタブーや倫理観、人間の暗部といった複雑なテーマを扱い、観る者に深く考えさせる力を持っています。また、彼らの作品は、美術史的な文脈も強く意識しており、ゴヤやジェームズ・アンソールといった過去の巨匠たちの作品を参照しながら、現代社会の問題点を浮き彫りにしています。

2003年には、イギリスで最も権威のある美術賞の一つであるターナー賞にノミネートされました。これまで、ロンドン、ニューヨーク、ベルリンといった主要都市で個展が開催され、日本でもいくつかのグループ展に参加するなど、国際的に高い評価を受けています。

チャップマン兄弟の作品は、その過激さゆえに好き嫌いが分かれるかもしれませんが、現代社会における暴力や不条理、人間の欲望といった根源的なテーマを鋭く突いており、現代美術において重要な存在として認識されています。

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