ジェイ・グールド

ジェイ・グールド：アメリカの鉄道王と「泥棒男爵」

ジェイ・グールド(1836-1892)は、19世紀アメリカを代表する実業家の一人です。鉄道や電信事業で莫大な富を築き上げた一方、「泥棒男爵」と揶揄されるほど、その手法は非難の的にもなりました。本稿では、彼の波乱に満ちた生涯を、詳細にわたって解説します。

生い立ちと初期の経歴

グールドは、ニューヨーク州でイギリスとスコットランドの血を引く両親のもとに生まれました。16歳で学校を辞め、父の金物商を手伝いながら独学で測量や数学を学びました。その後、製材業、革なめし業を経て、銀行業にも携わり、着実にビジネスセンスを磨いていきます。

結婚と家族

1863年、グールドはヘレン・デイ・ミラーと結婚し、6人の子供をもうけました。それぞれの子供は、後にそれぞれ異なる分野で成功を収めていきます。グールドの家族は、彼の事業における成功だけでなく、社会的な地位の確立にも大きく貢献しました。

タマニーホールとの関わり

グールドは、ニューヨークの政治組織であるタマニーホールと深く関わりを持ちました。特に、ボス・トウィードとの関係は、彼の事業に大きな影響を与えます。トウィードは、グールドに有利な政策を進める一方で、その不正行為はのちに社会問題へと発展します。

暗黒の金曜日

1869年9月24日、グールドはジェイムズ・フィスクと共謀し、金市場の操作を行いました。この「黒曜日の金曜日」と呼ばれる事件は、市場に大きな混乱をもたらし、グールドは巨額の利益を得たものの、その手法は世間の批判を浴びました。この事件は、グールドの「泥棒男爵」というイメージを決定づけた出来事の一つです。

ゴードン＝ゴードン卿との事件

1873年、グールドは海外投資家であるゴードン＝ゴードン卿との取引で問題を起こします。ゴードン＝ゴードン卿は詐欺師であり、グールドは彼の逮捕を試みます。しかし、この事件はアメリカとカナダの外交問題に発展し、グールドはエリー鉄道支配のチャンスを失います。この出来事は、グールドの倫理観と大胆不敵な行動を象徴的に示しています。

鉄道と電信事業

グールドは、鉄道と電信事業においても大きな成功を収めます。ユニオン・パシフィック鉄道やミズーリ・パシフィック鉄道などの支配に乗り出し、西部の鉄道網の整備に貢献しました。また、ウエスタンユニオン電信会社を支配下に置き、大西洋横断電信ケーブルとの接続なども実現させます。彼の事業は、アメリカのインフラ整備と経済発展に多大な影響を与えた一方、労働争議などの問題も引き起こしました。労働組合関係者からは、冷酷な経営者として強い批判を受けています。

死と遺産

グールドは1892年、結核で亡くなりました。莫大な資産を残し、その多くは家族に相続されました。慈善事業にも貢献した一方で、その残忍な経営手法は、彼への批判が絶えることはありませんでした。彼の死後も、グールドは「泥棒男爵」として、アメリカの経済史に名を刻むことになります。

グールドの評価：歴史的再評価と批判

グールドは生前、そして没後も「泥棒男爵」として広く知られてきました。彼の経営手法は、現代の倫理観からは容認できないものも多く、激しい批判の対象となっています。しかし、近年の研究では、彼の事業における手腕や経済発展への貢献が再評価される動きも見られます。グールドの生涯は、アメリカの資本主義の光と影を鮮やかに描き出したものであり、現在もなお議論を呼び続けています。様々な史料や解釈が存在する中で、彼の真の姿を捉えることは容易ではありません。

参考文献

Renehan, Edward J. (2005). The Dark Genius Of Wall Street: The Misunderstood Life of Jay Gould, King of the Robber Barons. New York: BasicBooks. ISBN 0465068855
Morris, Charles R. (2005). The Tycoons: How Andrew Carnegie, John D. Rockefeller, Jay Gould, and J.P. Morgan Invented the American Supereconomy. New York: Holt. ISBN 0805075992

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