ジェゴタ

ジェゴタ：ナチス占領下のポーランドにおけるユダヤ人救済の光と影

1942年から1945年にかけて、ナチス・ドイツの占領下に置かれたポーランドで、ユダヤ人を救済するため、ひそかに活動した地下組織がありました。その名は「ジェゴタ」。ポーランド語で「ユダヤ人救済委員会」を意味するこの組織は、ロンドンに亡命していたポーランド政府の支援を受け、絶望的な状況下で数多くのユダヤ人の命を救いました。

ジェゴタの設立と初期活動

ジェゴタの前身は、1942年9月にゾフィア・コサック=シュチュツカとヴァンダ・クラヘルスカ=フィリポヴィチによって結成された「ユダヤ人救済臨時委員会」でした。この委員会は、カトリック民主主義者らによって組織され、約180人のユダヤ人を保護したとされます。しかし、より組織的な活動が必要とされたことから、1942年12月、ジェゴタが正式に設立されました。

ジェゴタは、ポーランド国内の「母国政府代表部」の司令の下で活動しました。これは、占領下においてもポーランド政府の活動を継続させるための重要な拠点でした。ジェゴタのメンバーには、後のポーランド外相を務めるヴワディスワフ・バルトシェフスキなど、著名な人物も含まれていました。

死を賭けた救済活動

ナチスは、ユダヤ人をかくまうことを死刑に値する犯罪と定めていました。かくまった者だけでなく、その家族全員が処刑されるという厳しい状況下において、ジェゴタは絶え間ない危険にさらされながら活動を続けました。

ユダヤ人をかくまうための安全な場所の確保は極めて困難でした。ジェゴタは、あらゆる手段を講じて、適切な場所を探し続けました。子供たちは里親家族、孤児院、修道院などに預けられ、ジェゴタは里親家族に子供たちを親類として扱うよう指示し、養育費の援助も行いました。

イレーナ・センドラーと2500人の子供たち

ジェゴタの児童関係部門を率いたのは、イレーナ・センドラーです。彼女は、ワルシャワ・ゲットーから2500人ものユダヤ人児童を救い出し、保護することに成功しました。この功績は、ジェゴタの活動の中でも特に大きな成果の一つです。

ジェゴタは、ゲットーや強制収容所と密接に連絡を取り合い、情報を収集し、救済活動を行いました。また、ロンドンのポーランド亡命政府と連携し、ポーランド国民に対し、ユダヤ人救済への協力を呼びかけました。

広範な活動と国際的な評価

ジェゴタは、戦争中、ユダヤ人と非ユダヤ人が協力して運営された稀有な組織でした。多くのメンバーが逮捕される危険にさらされながらも、多様な方法で多くのユダヤ人を救済しました。その規模は正確には不明ですが、膨大な数にのぼると推測されています。

ジェゴタの功績は、戦争後も高く評価されました。1963年にはイスラエルで記念式典が開催され、ヤド・ヴァシェムの「正義の人々の並木道」に記念植樹が行われました。ヴワディスワフ・バルトシェフスキもこの式典に参加しています。ジェゴタの活動は、歴史に深く刻まれた、希望の物語なのです。

参考文献

Gunnar S. Paulsson, Secret City: The Hidden Jews of Warsaw, 1940-1945, Yale University Press, 2002, ISBN 0300095465.
Tomaszewski, Irene & Werblowski, Tecia, Zegota: The Council to Aid Jews in Occupied Poland 1942-1945, Price-Patterson, 1994, ISBN 1896881157.
『私はホロコーストを見た　黙殺された世紀の証言　1939-43（上・下）』ヤン・カルスキ著、吉田恒雄訳、白水社、2012年
『ショアーの歴史　ユダヤ民族排斥の計画と実行』ジョルジュ・ベンスサン著、白水社、2013年

関連用語

イレーナ・センドラー
ワルシャワ・ゲットー
ポーランドにおけるホロコースト
占領者によるポーランド市民の待遇
* 諸国民の中の正義の人

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