ジェフ・デューク

ジェフ・デューク(1923-2015)は、20世紀を代表するオートバイレーサーとして知られています。イギリス、ランカシャー出身の彼は、トライアルライダーとしてキャリアをスタートさせ、その後ロードレースへと転向。その類まれな才能で、輝かしい功績をモーターサイクルレースの歴史に刻み込みました。

デュークの才能が開花したのは、BSAやノートンといったメーカーへの所属を経てからです。1948年のマンクスGPでは、ノートンから借り受けたマシンでデビュー。リタイヤに終わりましたが、その潜在能力の高さを示唆する走りで注目を集めました。翌1949年には、プライベーターとしてマン島TTレースのクラブマンクラスとマンクスGPシニアクラスで優勝。この活躍がノートンファクトリーからの正式オファーへと繋がり、デュークは本格的なロードレースの世界へと足を踏み入れることとなります。

ノートンチームの一員となったデュークは、1950年代のモーターサイクルレース界を席巻します。1950年のマン島TTレースでは、ジュニアクラス2位、シニアクラス優勝という好成績を収め、世界選手権シリーズでも500ccクラスでタイトル争いを展開。惜しくも1ポイント差で優勝を逃しましたが、翌1951年には350ccクラスと500ccクラスのダブルタイトルを獲得、その実力を証明しました。この活躍により、同年に「スポーツマン・オブ・ザ・イヤー」と王立自動車クラブ（RAC）のシーグレーヴ・トロフィーを受賞、更には1953年には大英帝国勲章（OBE）を授与されるなど、イギリス国民から絶大な支持を集めました。

ノートンでの3シーズンで3つのタイトルを獲得したデュークでしたが、1952年シーズン終了後、イタリアのメーカー、ジレラへの移籍を発表。既にイギリスの国民的英雄となっていたデュークの移籍は大きな波紋を呼びましたが、その理由は明確には解明されていません。しかし、ジレラに移籍後のデュークの活躍は目覚ましく、1955年まで3年連続で500ccクラスチャンピオンの座に輝きました。1955年のマン島TTレースでは、平均速度100mph（約160km/h）突破という記録を樹立したと伝えられましたが、後に99.97mphであったと訂正されています。なお、この記録は、デュークの怪我により出場を回避した1957年に、ジレラに乗るボブ・マッキンタイヤによって公式に達成されています。

1956年には、小排気量クラスのライダーたちのスターティングマネー増額要求を支援したことが原因で、FIMから6ヶ月の出場停止処分を受けます。この処分により4年連続チャンピオンの夢は潰え、その後は怪我やジレラのグランプリ撤退によるプライベーター参戦など、苦難の道を歩むことになります。1959年シーズンを最後にグランプリから引退するまでに、再びチャンピオンの座に返り咲くことはありませんでした。

引退後はマン島に移住し、ホテル経営などビジネスの世界で活躍。2002年にはMotoGP殿堂入りを果たし、その偉業は後世に語り継がれることとなりました。

デュークは、モータースポーツ界に多大な影響を与えた人物としても知られています。彼は空気抵抗を考慮した体にフィットしたワンピースの革ツナギを最初に着用したライダーの一人であり、その革新的な試みは後のレーシングスーツのデザインに大きな影響を与えました。また、マン島TTレースでは数々の偉業を達成しており、マウンテンコースには「Duke's Bends」と名付けられた区間が存在するなど、その功績はコース名にも刻まれています。さらに、1960年には日本を訪れ、清原飛行場跡地や朝霧高原でのデモ走行、日本のメーカーへの助言などを通して、日本のモータースポーツ黎明期の発展に貢献しました。息子のピーターはモータースポーツ専門のビデオ出版社を設立し、デューク家のモータースポーツへの貢献は今も続いています。ジェフ・デュークは、技術革新への挑戦と、モータースポーツ界への多大な貢献によって、名実ともにオートバイレース史上に燦然と輝くレジェンドライダーとして記憶されています。

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