ジェミニウイルス科

ジェミニウイルス科（Geminiviridae）

ジェミニウイルス科は、植物に感染するウイルスの一群であり、一本鎖の環状DNAをゲノムとして保持しています。ビリオン（ウイルス粒子）は、正二十面体が2つ連結したような独特の形状をしており、この「双子」のような外観から「ジェミニ」と名付けられました。

特徴

構造: エンベロープ（外被膜）を持たないビリオンは、直径18-20nmの正二十面体が2つ結合しており、全長は約30nmです。
ゲノム: 各二十面体には、2500-3000塩基対からなるDNA分子が1つずつ収納されています。多くの種ではDNAは1種類ですが、ベゴモウイルス属のウイルスは2種類のDNAを持つことが多く、感染には両方のDNAが同時に必要となります。
遺伝子: ゲノム上に存在する遺伝子は少数で、遺伝子ごとに転写方向が異なります。
複製: ウイルスの複製には、DNAポリメラーゼやDNA修復酵素、転写因子など、宿主細胞の機能に大きく依存しています。DNAは、細胞核内でローリングサークル様式と呼ばれる方法で複製されます（細菌のプラスミドや一部のバクテリオファージと同様）。
伝播: ヨコバイやコナジラミなどの昆虫によって媒介されます。
症状: 感染した植物には、葉脈に沿った黄斑や退色斑が現れるのが特徴です。

属と主な種

ジェミニウイルス科は、いくつかの属に分類されています。

マストレウイルス属 (Mastrevirus)
Maize streak virus (MSV)：トウモロコシ縞葉ウイルス
Miscanthus streak virus (MiSV)
タバコ黄萎ウイルス (Tobacco yellow dwarf virus, TYDV)
Chloris striate mosaic virus (CSMV)
クルトウイルス属 (Curtovirus)
Beet curly top virus (BCTV)：テンサイカーリートップウイルス
ベゴモウイルス属 (Begomovirus)
Bean golden mosaic virus (BGMV)：インゲンマメ黄金モザイクウイルス
Cassava latent virus (CLV)：キャッサバ潜在ウイルス
Mungbean yellow mosaic virus (MYMV)：緑豆黄斑モザイクウイルス
トポクウイルス属 (Topocuvirus)
* Tomato pseudo-curly top virus：トマト偽カーリートップウイルス

人間との関わり

興味深いことに、ジェミニウイルスによる感染症は、古代日本の歌にも記録されている可能性があります。

万葉集には、孝謙天皇が「沢蘭（ヒヨドリバナ）を抜きて」という題で詠んだ歌があります。

この歌の内容は、ヒヨドリバナに現れたジェミニウイルスによる症状を示唆していると考えられており、もしそうであれば、植物ウイルスに関する世界最古の記録となります。

1970年ごろ、大阪府立大学の井上忠男教授と尾崎武司教授は、この歌に詠まれたヒヨドリバナの黄葉の原因となるウイルスを特定しました。

ジェミニウイルスは、農業に大きな影響を与える植物ウイルスであると同時に、人類の歴史とも密接に関わってきた興味深い存在と言えるでしょう。

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