ジェミニ1号

ジェミニ1号（Gemini 1）は、アメリカ航空宇宙局（NASA）が推進した「ジェミニ計画」において、最初に宇宙へと打ち上げられた宇宙船です。この計画は、後にアポロ計画へと繋がる有人宇宙飛行技術を発展させるための重要なステップであり、ジェミニ1号はその第一歩を担いました。本来、ジェミニ宇宙船は2名の宇宙飛行士を乗せる設計でしたが、この初号機は将来の有人飛行に備えた技術的な検証を目的とした無人試験機として開発されました。

ミッションの目的と計画

激化する宇宙開発競争の中、アメリカ合衆国はマーキュリー計画に続く次なる有人宇宙飛行計画としてジェミニ計画を始動させました。この計画では、二人乗りの新型宇宙船を用いたより高度なミッションが企図されており、その実現のために、ジェミニ1号は新しい打上げロケットであるタイタンII GLVとの技術的な適合性や、通信・追跡システムといった宇宙船全体の機能を総合的に検証するための、重要な無人試験機としての役割を担いました。

ジェミニ1号のミッション計画は比較的シンプルでした。宇宙船は地球軌道を3周するのみとされ、打上げに使用したロケットの第二段から分離されることはありませんでした。また、有人宇宙船とは異なり、地球への帰還・回収の予定もありませんでした。

機体とロケット

ジェミニ1号の機体は、有人飛行を前提としない試験機としての特徴を備えていました。生命維持装置は装備されず、代わりに試験に必要な質量を確保するためのバラストが搭載されました。地球帰還・回収を行わない設計のため、機体の下部に位置する耐熱シールドには意図的に大きな穴が4箇所設けられていました。これは、大気圏に再突入する際に機体が確実に分解・燃え尽きるようにするための措置でした。機体の内部には、飛行中のさまざまなデータを収集するための遠隔測定装置が設置されており、気圧、振動、加速度、温度といった多数の項目が継続的に計測されました。

ジェミニ1号の打上げに使用されたタイタンII GLVロケットは、アメリカ空軍が開発した大陸間弾道ミサイルであるタイタンIIを宇宙打上げ用に改修したものでした。開発完了から日が浅く、まだ高い信頼性が確立されている段階ではなく、試験中に配線のショートが発見されるなど、いくつかの技術的な課題を抱えていました。

打上げと飛行

ジェミニ1号は、1964年4月8日（UTC）にフロリダ州のケープカナベラル空軍基地にあるLC-19発射台から打ち上げられました。打上げから約2分半後、高度約64km、水平距離約91kmの地点で第一段ロケットが切り離されました。この直後に約3秒間、地上との通信が途絶する事象が発生しましたが、これは第二段ロケットの点火に伴い機体周囲の大気がイオン化されたことによる一時的なものであり、以降のジェミニ計画でも観測されました。打上げから約5分半後、ジェミニ1号は地球軌道への到達に成功しました。当初の計画では遠地点高度299kmが予定されていましたが、実際の軌道は速度が計画を上回ったため、遠地点高度約320kmとなりました。

ミッション完了と終焉

ジェミニ1号は計画通り地球軌道を3周し、所定の試験項目は全て完了しました。大気圏への再突入のための逆噴射は計画されていなかったため、ジェミニ1号は分離されなかった第二段ロケットを取り付けたまま、その後も軌道上に留まりました。アメリカの有人宇宙飛行ネットワーク（MSFN）によって継続的に追跡され、徐々に大気抵抗による影響で軌道高度が低下していきました。そして打上げから4日後の1964年4月12日（UTC）、ジェミニ1号は南大西洋上に落下し、そのミッションを終えました。このジェミニ1号のミッション遂行にあたっては、アメリカ国防総省も大規模な支援を提供しており、合計5,176名の人員、航空機11機、艦艇3隻が投入されました。これは、宇宙開発が国家的な一大プロジェクトであったことを示しています。

ジェミニ1号の成功は、ジェミニ宇宙船とタイタンIIロケットの基本的な適合性を確認し、後のジェミニ計画における様々な発展的なミッション、そして最終的には月面着陸を目指すアポロ計画へと繋がる技術開発と運用体制の構築に、貴重なデータと経験をもたらしました。

もう一度検索