ジェリー・バトラー

ソウルミュージックの発展期において、独特の温かく豊かな歌声で人気を博したジェリー・バトラー（Jerry Butler Jr.）は、単なる歌手にとどまらず、ソングライター、そして政治家としても多岐にわたる功績を残した人物です。1939年 12月8日、ミシシッピ州サンフラワーに生まれ、85歳でその生涯を閉じる2025年 2月20日まで、彼は音楽界と社会の両方で影響を与え続けました。

彼のキャリアは、幼少期を過ごしたシカゴの貧しい環境から芽生えました。人種差別や社会的不公平に直面する中で、教会での音楽活動が彼にとって大きな救いとなります。ここで後の音楽的盟友となるカーティス・メイフィールドと出会い、共にゴスペルカルテットを結成したことが、プロの音楽家への第一歩でした。このグループは後にメンバーを増やしてルースターズとなり、さらにインプレッションズへと発展します。バトラーはインプレッションズの初代リードシンガーとして、1958年に自身が手掛けた楽曲「フォー・ユア・プレシャス・ラブ」をリリース。これがグループにとって初のヒットとなり、ゴールドディスクを獲得する成功を収めます。インプレッションズ脱退後、バトラーはソロアーティストとしての道を歩み始めます。初期のソロヒットには、旧友メイフィールドが作詞とハーモニーで参加した「ヒー・ウィル・ブレイク・ユア・ハート」（1960年）などがあります。また、彼はその洗練された歌唱スタイルから「黒人版アンディ・ウィリアムズ」と称されることもあり、「ムーン・リバー」（1961年）のようなスタンダードナンバーもヒットさせています。バート・バカラック作曲の「メイク・イット・イージー・オン・ユアセルフ」、ベティ・エヴェレットとのデュエット「レット・イット・ビー・ミー」（1964年）、ブレンダ・リー・イーガーとの「Ain't Understanding Mellow」など、幅広い楽曲で聴衆を魅了しました。特にフィラデルフィアを拠点とするプロデューサーチーム、ギャンブル&ハフとの協業は、彼のキャリアに新たな輝きをもたらしました。この時期に生まれた「ネバー・ギブ・ユー・アップ」はビルボードHot 100で20位、「Hey, Western Union Man」はR&Bチャートで1位を記録するなど、次々とヒットを連発します。1969年の「オンリー・ザ・ストロング・サーバイブ」は、ポップチャートでも成功を収め、ノーザン・ソウルの代表曲として今日でも高く評価されています。彼はまた、オーティス・レディングと名曲「アイヴ・ビーン・ラヴィング・ユー・トゥー・ロング」（1965年）を共作するなど、ソングライターとしても才能を発揮しました。彼の楽曲は後進のアーティストにも影響を与え、トニー・オーランドとドーンによる「ヒー・ウィル・ブレイク・ユア・ハート」のカバー「ヒー・ドント・ラブ・ユー」は、1975年にビルボードHot 100で1位を獲得する大ヒットとなりました。

音楽界での成功を収める一方、ジェリー・バトラーは政治の世界にも進出します。1985年には民主党から立候補し、イリノイ州クック郡の委員に当選。健康・福祉や建設といった分野の委員を務め、地域社会に貢献しました。政治活動中も音楽ツアーを続けるという異色のキャリアを歩み、2008年にはクック郡の消費税増税にも関与しています。彼は2018年に委員を退任するまで、長年にわたり公職を務めました。

その功績は多方面で称えられています。1991年には、インプレッションズの一員としてロックの殿堂入りを果たしました。音楽評論家の中には、彼の輝かしいソロキャリアも殿堂入りに値すると評価する声が多くあります。彼の楽曲「ネバー・ギブ・ユー・アップ」は、ブルース・ロックバンドのザ・ブラック・キーズによって2010年にカバーされるなど、時代を超えて愛され続けています。晩年はパーキンソン病を患いましたが、シカゴで妻アネット（かつて彼のバックシンガーを務めた）と共に穏やかに過ごしました。ジェリー・バトラーは、音楽と政治という二つの異なる分野で確固たる足跡を残し、その影響力は今後も語り継がれることでしょう。

主なアルバム

Moon River (1962)
He Will Break Your Heart (1963)
Folk Songs (1963)
Need to Belong (1964)
The Soul Artistry of Jerry Butler (1967)
The Soul Goes On (1969)
Ice On Ice (1969)
You And Me (1970)
Jerry Butler Sings Assorted Sounds (1971)
The Sagittarius Movement (1971)
Power of Love (1973)
Sweet 16 (1974)
Thelma & Jerry (1977) ※テルマ・ヒューストンとの共作
It All Comes Out (1978)
* Two to One (1978) ※テディ・ペンダーグラスとの共作

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