ジェリー・パーネル

ジェリー・ユージン・パーネル（Jerry Eugene Pournelle, 1933年8月7日 - 2017年9月8日）は、アメリカ合衆国のSF作家であり、アメリカSF作家協会の元会長を務めました。彼の作品は特にミリタリーSFの分野で高く評価されています。

作風の特徴

パーネルの創作活動における最大の特色は、その多岐にわたるキャリアに裏打ちされた、政治や社会に対する深い理解と洞察力にあります。彼の作品は、単なる戦闘描写にとどまらず、広大な宇宙を舞台にした文明や国家間のダイナミクス、そして登場人物たちの心理を詳細に描き出します。特に、侵略者や支配者といった、物語の中で敵対者として描かれがちな側の論理や苦悩、組織内部の事情などを、意外なほど誠実に、そして多角的な視点から描いたことは、当時のSF界に新たな視点をもたらしました。

多くの作品で「コドミニアム（連合国家）」と呼ばれる独自の未来史を舞台に設定しており、その世界観の中で人間ドラマや社会構造の変化を描いています。また、彼は著名なSF作家ラリイ・ニーヴンと数多くの作品を共作しており、『神の目の小さな塵』や『悪魔のハンマー』といった代表作を生み出しました。晩年のH・ビーム・パイパーとも親交があり、パイパーの「人類連合」シリーズの設定を利用する権利を譲り受けるなど、他の作家との交流も深かったことが知られています。

経歴と活動

パーネルはルイジアナ州シュリーブボートで生まれ、アイオワ大学を経てワシントン大学で心理学および政治学の博士号を取得しました。大学卒業後はボーイング社の航空宇宙研究所に勤務するなど、科学技術分野での実務経験を積みました。その後、政界に転じ、都市や全国規模の選挙でマネージャーを務めたり、ロサンゼルス市長のアシスタントを務めたりしました。こうした多様な経歴が、彼の作品における政治や軍事、社会描写のリアリティを支えています。

1971年に作家としてデビューし、1973年にはジョン・W・キャンベル新人賞を受賞するなど、早期からその才能を認められました。

彼は作家活動と並行して、宇宙開発に関する政治的な提言も積極的に行いました。1980年には、ロバート・A・ハインラインやラリイ・ニーヴンといった他のSF作家、さらには学者、宇宙産業関係者、軍人、宇宙飛行士などとともに「国家宇宙政策市民評議会」を設立しました。この団体は、有人宇宙飛行の推進を目指し、特に当時のレーガン政権への影響力を行使することを目的としていました。同評議会は、戦略防衛構想（いわゆる「スター・ウォーズ計画」）にも賛同を表明するなど、宇宙政策における保守的な立場からの発言力を持ちました。

また、パーネルはコンピュータにも深い関心と知識を持っていました。アメリカの有力コンピュータ雑誌「Byte」に長期にわたり『混沌の館にて』というコラムを連載し、コンピュータユーザーの間で広く読まれました。Byte誌休刊後も、日本のコンピュータ雑誌「日経バイト」、さらには「日経パソコンオンライン」へと連載の場を移し、多くの読者に影響を与えました。これらのコラムは単行本としても刊行され、彼のコンピュータに関する洞察や体験が共有されました。

主な著作と受賞歴

日本語に翻訳された作品も多く、ミリタリーSFの代表作として『宇宙の傭兵たち』、『アララットの死闘』、『地球から来た傭兵たち』シリーズなどがあります。ラリイ・ニーヴンとの共作では、『神の目の小さな塵』、『インフェルノ -SF地獄篇-』、『悪魔のハンマー』、『降伏の儀式』、『天使墜落』などがよく知られています。

特に『降伏の儀式』は1989年に日本の星雲賞海外長編部門を受賞しています。また、ラリイ・ニーヴン、マイクル・フリンとの共作『天使墜落』は1992年にプロメテウス賞を、1998年には二度目の星雲賞海外長編部門を受賞するなど、批評的な成功も収めました。映画『猿の惑星』シリーズのノヴェライズ作品も手掛けています。

2017年に死去しましたが、彼のミリタリーSFにおける功績、ニーヴンとの共作による広範な影響、そしてSFと現実世界、特に政治や技術を結びつけた活動は、今なお多くの読者や研究者にとって重要な足跡として残されています。

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