ジェリー街へ行く

ジェリーの大都会冒険記『ジェリー街へ行く』：トムとジェリーの珍しい1本

1945年7月7日公開の『トムとジェリー』短編アニメーション映画『ジェリー街へ行く』(Mouse in Manhattan)は、シリーズの中でも異彩を放つ作品です。なぜなら、この作品ではトムとジェリーが一度も喧嘩しないだけでなく、トムは冒頭とラストシーンにしか登場しない、ジェリーを主人公とした物語になっているからです。

都会への憧れと現実のギャップ

物語は、ジェリーが熟睡するトムに書き置きを残し、ニューヨークのマンハッタンへと旅立つシーンから始まります。汽車や車に揺られ、大都会に到着したジェリーは、その壮大さに圧倒されます。摩天楼、洗練された女性たち、近代的なホテルのエレベーター、そして屋上から眺める息を呑むような夜景。田舎で暮らすジェリーにとって、全てが新鮮で刺激的な体験です。

しかし、都会生活は思った以上に過酷でした。ホテルのテラスで人形とダンスを楽しんでいると、シャンパンボトルに落ちて吹き飛ばされ、その後は野良猫の大群に追いかけられます。さらに、逃げる途中で宝石店のショーウィンドーを壊してしまい、宝石泥棒と間違われ、警察官から銃撃される危機に瀕します。

故郷への回帰と意外な結末

命からがら線路を辿って田舎へ逃げ帰ったジェリーは、まだ眠り続けるトムの姿を見つけます。書き置きを破り捨て、トムの顔中にキスをしたジェリーは、田舎でトムと暮らすことの幸せを改めて実感します。一方、何が起きたのか全く理解できないトムは、困惑した表情を浮かべています。最後は、ジェリーの巣穴の前に「楽しい我が家」の看板が掲げられ、物語は幕を閉じます。

スタッフと制作

この作品は、ウィリアム・ハンナとジョセフ・バーベラ監督による作品で、メトロ・ゴールドウィン・メイヤー・カートゥーン・スタジオ制作、メトロ・ゴールドウィン・メイヤーとロウズ・シアター配給です。製作にはフレッド・クインビー、共同製作にはウィリアム・ハンナ、脚本はウィリアム・ハンナとジョセフ・バーベラが担当しています。その他、多くのアニメーター、レイアウト担当、背景担当、音楽監督などが携わっています。テクニカラーによる彩色とウェスタン・エレクトリックによる録音技術も用いられています。

キャラクターと時代背景

本作に登場する主なキャラクターは、主人公のジェリー、ほとんど登場しないトム、ジェリーを追い詰める都会の野良猫たち、ジェリーを宝石泥棒と誤解する警察官たち、そしてホテルのレストランでジェリーとダンスをする人形です。旧地上波版のナレーションで「なにしろこの村はテレビなんかまだありませんから」というセリフがありますが、これは1970年代の放映当時の時代背景を反映したもので、1945年公開当時の状況とは異なります。（アメリカでは1941年からテレビ放送が始まっています）

まとめ：都会の光と影、そして故郷の温かさ

『ジェリー街へ行く』は、都会への憧れと現実の厳しさ、そして故郷の温かさを見事に描いた作品です。トムとジェリーの定番の喧嘩がない点が珍しく、ジェリーの心情変化がよく描かれている点が魅力です。都会の華やかさと危険性、そして何よりもジェリーがトムとの生活の大切さを再確認する物語は、観る者に様々な感情を与えてくれます。この作品は、トムとジェリーシリーズの中でも、特異な魅力を持つ、必見の作品と言えるでしょう。

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