ジェンセン・モーターズ

ジェンセン・モーターズ：英国が生んだスポーツカーと高級車の栄光と挫折

ジェンセン・モーターズは、1934年、兄弟であるリチャードとアラン・ジェンセンによってイギリスのバーミンガムで設立された自動車メーカーです。当初は小さなコーチビルダーとしてスタートし、既存メーカーの車体に高級感あふれるカスタムボディを架装することで名を馳せました。ハリウッドスター、クラーク・ゲーブルからの依頼で製作したフォードV8ベースの車は、ジェンセンの名声を高めるきっかけとなりました。その後、自社ブランドの乗用車「ホワイト・レディー」を開発、改良を重ねた「Sタイプ」として1935年から販売を開始します。

ジェンセンは乗用車だけでなく、商用車分野にも進出しました。1930年代後半には「JNSN」ブランドで軽量トラックやトレーラーなどを製造。第二次世界大戦中は軍需産業に貢献し、戦後は商用車の生産を拡大しました。BMC（ブリティッシュ・モーター・コーポレーション）からの委託を受け、オースチン・ジープシーやオースチン・A40スポーツなどのボディ製造も手がけました。

戦後の乗用車製造では、デザイナーのエリック・ニールが加わったことが大きな転換点となりました。ニールは、1950年に発表された現代的なデザインのクーペ「インターセプター」や、1955年に発表された画期的なファイバーグラスボディを採用した「541」を設計。その後継車種である「CV8」は、アメリカ・クライスラー製のV8エンジンを搭載し、高いパフォーマンスを誇りました。ジェンセンは、カロッツェリア・トゥーリングのデザインによる2代目インターセプター（1966年）を製造。ヴィニャーレが初期のボディ製作を担当し、後にジェンセン自身が行うことになります。

1966年には、世界初のABS装備市販車の一つとなったフルタイム4WDサルーン「FF」も発売されました。しかし、ジェンセンは1970年代に入ると経営難に陥り、第一次石油危機による大型車の需要減退が追い打ちをかけました。1975年に事実上倒産、1976年には廃業しました。

廃業後も、ジェンセンのブランドと技術は受け継がれていきました。「ジェンセン・スペシャルプロダクツ」と「ジェンセン・パーツ&サービス」が設立され、旧車のパーツ供給やエンジニアリング業務を継続。その後、何度かの企業買収を経て、インターセプターの再生産なども行われました。

1998年には、新型スポーツカー「S-V8」を発表しましたが、製造上のトラブルにより生産は中止。その後、残されたS-V8の一部は完成させて販売されました。2000年代には、「インターセプターS」、「インターセプターSX」といったインターセプターのリメイクモデルも登場しました。

ジェンセン・モーターズの歴史は、英国自動車産業の興隆と衰退、そして技術革新と挑戦の歴史を象徴するものです。スポーツカーから商用車まで幅広いモデルを製造し、革新的な技術を取り入れながらも、時代の変化や経済状況に翻弄されたその軌跡は、多くの自動車愛好家にとって興味深いものです。ジェンセンの技術やデザインは、現代の自動車にも影響を与え続けていると言えるでしょう。

主要モデル

Sタイプ
Hタイプ
PW
インターセプター (1950年モデル)
541
541R
541S
CV8
インターセプター (1966年モデル)
FF
ヒーレー
GT
S-V8
インターセプターS
* インターセプターSX

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